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マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第46回

(まとめ:1)役割を軸としたマネジメントを行う

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

「もう3月も半ばだ。上級マネジャー、我が社では部長になるが、彼らが行うマネジメントを改革して効果的なものに誘導していく取組みは進んでいるのか?」


「3月上旬に、来年度の取組みとして部長マネジメント改革を提案し、本部長にご了解頂きました。」


「なるほど。で、具体的には?」


「5月から、MCSをベースにした部長研修をスタートさせます。8月~9月の人事評価にはMCSを観点にした評価項目を取り入れ、来年春の人事から反映させます。」


「なるほど。良いペースで進めていくんだな。そんなペースでの進展は、関係者がよほど腑に落ちていないと不可能だろう。何か、仕掛けでもしたのかな?」


「仕掛けというほどでもありませんが、昨年の秋から、私が部下の課長たちにレクチャーをし、準備を進めてもらいました。」


「ほう?」


「彼らはとても吸収力が高くて、いろいろな勉強も進めているようです。マーチャントの教科書を買った課長もいるようです。」


「そんな課長までいるのか?何か言っていたか?」


「三上取締役のお話、マーチャントの教科書をベースにはしているけれど、それだけではないようですね。例えば『課長の役割』や『部長の役割』は、教科書には記載されていないと言っていました。」


「それで。」


「お話にあった内容はMCSの考え方に調和していますし、『日本企業のマネジメントをもっと成果のあがるものにするには、まずはマネジャーの役割についての意識を統一化する必要があるだろう。だからマネジャーの役割を最初に明らかにするのは、とても理にかなったアプローチだ』と言っていました。」


「そうか。私にとっては孫弟子にあたる課長にお褒めいただくとは、嬉しいような、何か不思議な感じだな。」


「恐れ入ります。ここで一つ、お聞きしてよいでしょうか?」


「もちろん。」


「わが社のマネジメントをもっと成果のあがるものにするために、まずはマネジャーの役割についての意識を統一化する必要があることは、感覚的には分かるのですが、それはなぜかと言われると、しっかりとした答えが出ないのです。なぜ、役割が大切なのでしょうか?」


「分かった。今日はその説明をしよう。」



マネジメント改善の原動力となる『役割』

「端的に言えば、マネジャーの役割を明確化しなければ、マネジメントの改善は不可能だからだ?」


「そうでしょうか?何かを改善しようとするとき、その目的は成果であって、役割ではありません。役割は手段なのです。だから『目指す成果をあげるように、自分の役割は自由に定義してよい』というアプローチもあるのではないでしょうか?」


「それは、経営者には重要な考え方だな。組織形態が定まっていないスタートアップ企業や零細企業で働く人々にも、持ってもらいたい意識だ。」


「そうですね。」


「しかし、一定規模以上の、組織体制がしっかりと定められている企業で働くマネジャーには、『自分の役割は自由に定義してよい』とは言えない。各マネジャーに求められる役割を明確化し、それを果たすよう求めなければならない。」


「なるほど。で、それはなぜですか?」


「何かを改善するときには『PDCAサイクルを回せ』というだろう。部長のマネジメントを改善してもらうときも、PDCAサイクルを回してもらうことになる。」


「はい。それは、そう思います。」


「部長が行うべきマネジメントを改善しようとするとき、部長の役割を定義しなければ、PDCAサイクルを活用することができなくなるんだよ。」


「えっ、そうなのですか?」



暖房機の例

「では、これを簡単な例、電気暖房機の例で考えてみよう。電気暖房機は室温を20℃に設定すると、20℃未満では電気ヒーターが働き、20℃に到達すれば休止する。また20℃を下回ると電気ヒーターに再通電する。」


「はい。単純なPDCAサイクルと言えますね。」


「このサイクルは、どうして成立しているのだろう?」


「どうしてと言われましても。」


「PDCAサイクルを回しながら電気暖房機が部屋を指定された温度に保つ機能するために明らかになっていなければならない要素は、何だ?」


「まずは目標でしょうね。この場合は『室温を20℃に保つ』ということです。」


「そうだな。」


「それからコントロールの方法が明らかになっていなければなりません。この場合は『室温に応じて電気を通電したり遮断したりする』ということです。」


「そうだ。それ以外は?」


「うーん?」


「部屋に電気暖房機がなければ、室温は保てるのか?」


「そうですね。しかしそれを、どのように表現すればよいのでしょう?」


「『目標実現のメカニズム』があるということだ。この場合には、ヒーター・スイッチ・センサ等を内蔵した電気暖房機が存在しているということだな。」


「なるほど。」


「そして『メカニズムが果たす役割』が明確になっているということだ。この場合は、『電気ヒーターで加熱する』という役割を果たす。」


「なるほど。」


「このように、電気暖房機に係る4つの要素を明確化することによって、電気暖房機が機能する姿をしっかりと理解することができる。それがわからなければ、機能させることはできないのだよ。」


「ふうむ。」



企業の場合

「これを、企業のマネジメントについて考えるとどうなると思う?」


「『目標』は、各会社で設定される種々の目標ですね。全社目標や、ブレークダウンされて各マネジャーに課される目標の実現に向かってマネジメントを改善していきます。」


「そうだな。では『目標実現のメカニズム』は?」


「会社組織そのものでしょうか?経営者が方向性を決め、現場の働き手が製品やサービスを生産する。でも、それだけではうまくいかないので間に『マネジャー』を置き、両者を繋いでいるというメカニズムを、会社は備えています。」


「そういう理解で良いだろう。では『メカニズムが果たす役割』とは?」


「とすると、それが『マネジャーが果たすべき役割』なのですね。」


「そうなんだ。では『コントロールの方法』は?」


「それが行動コントロール、成果コントロールそして人的コントロールなのです。」


「そういうことだ。」



役割の重要性

「では、ここでおさらいをしてみよう。課長の役割は何だ?」


「はい、課長は『現場の働き手が最高のパフォーマンスをあげられるように促すこと』、『他の部門と連携すること』、『経営戦略に対応すること』、『矛盾を解消すること』、そして『働き手たちが働きやすく、モチベーションの高まる職場作りをすること』という役割を担っています。現場の働き手たちがより効果的に仕事をし、成果をあげられるように促す役割です。」


「部長の役割は?」


「部長は『戦略機能』、『現場マネジャーのマネジメント』、『他部門との連携』、そして『マネジメント体制の再整備』という役割を果たします。」


「それが、先ほどの電気暖房器の例で言えば、『電気ヒーターで加熱する』に該当するんだ。」


「そうか、『室温に応じて電気を通電したり遮断したりする』ことに該当する方法論が、マネジメントの場合には、行動コントロール、成果コントロール、そして人的コントロールになる訳ですね。」


「そうなんだ。方法論を知っていても、役割をしっかりと認識していないと、マネジメントの方向性が定まらないだろう。」


「おっしゃる通りです。」


「では、マネジャーの役割を明確化せずして、マネジメントを実施することができるか?マネジメントを改善することができるか?」


「いいえ、できませんね。了解しました。」


 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

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