マネジメントを再考してみる 前編<現場マネジメント>
第39回
現場マネジャーへのマネジメント方法(アクション・コントロール)(前編)
「現場マネジャーが現場をマネジメントしようとする時、どんな方法を利用できるのか、というお話をお聞きしているところです。」
「最初の方法はアクション・コントロール、すなわち働き手の行動をコントロールすることだ。」
「以前にお聞きしましたね。『パフォーマンスの上がる方法を会社側が考案して、それを働き手に実施させる』ことだと。」
「その通りだ。」
「今日は、それをもう少し詳しく教えて下さい。」
アクション・コントロールとは何か
「アクション・コントロールには、二つの方向性がある。」
「なんですか?二つの方向性とは?」
「大げさに考えるまでもない。一つ目の方向性とは『なすべき行動を伝え、その行動を促したり動機付ける、時には強制する』という方向性、もう一つは、『してはならない行動を伝え、それを行なわないように促し動機付けたり、行い得ないような仕組みを設けたりする』という方向性だ。」
「言われてみると、もっともですね。」
実施方法
「今、『なすべき行動もしくはしてはならない行動を伝え、それを促したり動機付ける、時には強制する』と言われましたね。促すとか動機付ける、もしくは強制するというのは、どうやって行うのですか?」
「そこが、ポイントだよな。MCSでは『行動責任(Action accountability)』『行動制限(Behavioral constraints)』『事前レビュー(Preaction Review)』そして『冗長性(Redundancy)』によって行うことにしている。」
「なんだか難しそうですね。ひとつひとつ、ご説明してもらえませんか?」
行動責任
「アクション・コントロールのうち行動責任とは、働き手に対して特定の行動を要求し、その実行に責任を負わせることだ。」
「指示や命令ということですね。」
「そうだ。『やってもやらなくても良い、ではない。絶対にそうしてもらう』という義務を負わせる訳だ。」
「すると、評価や報酬に繋がるのでしょうか?」
「そうだな。『できたら褒美を与える、できなかったら罰を下す』という賞罰でもって確実性を期す場合が多いだろう。必ず実行するよう指示されたとして、万が一、それを行わなくても特段に罰せられること等がなければ、働き手は本気でそれを行わなければならないとは思わないだろうからな。」
「確かに。そういうことを、口頭で強く指示・命令する訳ですね。」
口頭以外に指示・命令する方法
「口頭で伝えることももちろん多いだろうが、他にもコミュニケーション手段がある。代表的なのは『文書によるコミュニケーション』だ。契約・方針・規則・手順・行動規範などや、マニュアル、チェックリスト、指示・命令を書いたメモなどが該当する。」
「なるほど。」
「それに加えて、『仕事の仕組み』として行う場合もある。」
「何ですか?その『仕事の仕組み』とは?」
「我が社では『次工程に半製品を送る前に、出来栄えをチェックする』ことになっている。」
「そうですね。そうやって実現した高い品質が、我が社の強みの一つです。」
「そうなんだ。でも以前は、このルールはなかなか守られなかったんだ。」
「そうなんですか?」
「賞罰で対応したこともあるが、あまり効果がなかった。」
「で、どうしたんですか?」
「結局は『仕事の仕組み』に落ち着いたんだ。伝票つづりの中に各工程ごとのチェックリストを綴じ込み、次工程が半製品を受け入れる時に、前工程が適切にチェックしていなければ受け入れてはならないことにした。」
「前行程がきちんとチェックしていないものを受け入れてしまうと、受け入れた工程の責任になってしまう訳ですね。」
「誰でも、他人のミスの責任を押し付けられたくはないからな。厳重にチェックするようになった。それで、工程毎のチェックが徹底されるようになったという訳だ。」
「なるほど。」
コラムマネジメントを再考してみる 前編<現場マネジメント>
- 第1回 マネジメント改革を指示された
- 第2回 徳川家康とマックス・ウエーバーの亡霊に操られている?
- 第3回 上司はなぜ、部下に命令できるのか?
- 第4回 テイラーが生み出したマネジメント
- 第5回 働き手を助けることがマネジメントになるのか?
- 第6回 精神論ではないマネジメント体系を作り出していく
- 第7回 マネジメントのシステム化を考える
- 第8回 マネジメント・コントロール・システム(MCS)とは
- 第9回 普遍的ながら新たな示唆を与えてくれる
- 第10回 マネジメントをコントロールするとは
- 第11回 マネジメント・コントロールを行うシステム
- 第12回 現場マネジャーとは課長のこと?上位マネジャーとは?
- 第13回 上位マネジャーと現場マネジャーとの区切り
- 第14回 ベンチャー企業の経営危機に対処する(前編)
- 第15回 ベンチャー企業の経営危機に対処する(中編)発展段階説
- 第16回 ベンチャー企業の経営危機に対処する(後編)次の段階に対応する
- 第17回 上級マネジャーの役割(戦略機能)
- 第18回 上級マネジャーの役割(現場マネジャーのマネジメント)(前編)
- 第19回 上級マネジャーの役割(現場マネジャーのマネジメント)(中編)
- 第20回 上級マネジャーの役割(現場マネジャーのマネジメント)(後編)
- 第21回 上級マネジャーの役割(間接部門を含めた部門間の連携)
- 第22回 上級マネジャーの役割(マネジメント体制の再整備)
- 第23回 上級マネジャーの役割(財務的成果マネジメント)
- 第24回 現場マネジャーの役割(全体像)
- 第25回 現場マネジャーの役割(現場パフォーマンス向上)(前編)
- 第26回 現場マネジャーの役割(現場パフォーマンス向上)(後編)
- 第27回 現場マネジャーの役割(連携)(前編)
- 第28回 現場マネジャーの役割(連携)後編
- 第29回 現場マネジャーの役割(戦略対応)(前編)
- 第30回 現場マネジャーの役割(戦略対応)中編
- 第31回 現場マネジャーの役割(戦略対応)(下編)
- 第32回 現場マネジャーの役割(矛盾解消)(上編)
- 第33回 現場マネジャーの役割(矛盾解消)(中編)
- 第34回 現場マネジャーの役割(矛盾解消)(後編)
- 第35回 現場マネジャーの役割(環境整備)(前編)
- 第36回 現場マネジャーの役割(環境整備)(後編)
- 第37回 現場マネジャーのマネジメント方法(全体像)(前編)
- 第38回 現場マネジャーのマネジメント方法(全体像)(後編)
- 第39回 現場マネジャーへのマネジメント方法(アクション・コントロール)(前編)
- 第40回 現場マネジャーのマネジメント方法(アクション・コントロール)(中編)
- 第41回 現場マネジャーのマネジメント方法(アクション・コントロール)(後編)
- 第42回 現場マネジャーのマネジメント方法(リザルト・コントロール)(前編)
- 第43回 現場マネジャーのマネジメント方法(リザルト・コントロール)(中編)
- 第44回 現場マネジャーのマネジメント方法(リザルト・コントロール)(後編)
- 第45回 現場マネジャーのマネジメント方法(ピープル・コントロール)(前編)
- 第46回 現場マネジャーのマネジメント方法(ピープル・マネジメント)(中編)
- 第47回 現場マネジャーのマネジメント方法(ピープル・コントロール)(後編)
- 第48回 現場マネジャーのマネジメント(総括)
- 第49回 本シリーズの総括(前編)
- 第50回 本シリーズの総括(後編)
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
「世界の先進国では日本だけが一人負け」という話を聞くことがあります。世界が日本を羨んだ “Japan as No.1” からまだ40年ほどしか経っていないのに、当時、途上国といわれていた幾つかの国々の後塵を拝している現状です。
それを打開する方法の一つに、マネジメントを高度化していくことがあると思われます。日本のホワイトカラーの生産性は先進国では最低だといわれていますが、逆に言えば、マネジメントを改善すれば成果を飛躍的に伸ばすことができる可能性があります。
筆者は Bond-BBT MBA でMCS(マネジメント・コントロール・システム)論を学んで以来、マネジメントでもって企業の業績をあげる方法について研究してきました。マネジメントを合理的に考え直し、システムとして組み直すのです。StrateCutionsで行うマネジメント支援の理論的背景や方法論を、お知り頂ければと考えています。