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会社千夜一夜

第3回

金融機関を渡り歩いて事業改善を怠ったケース

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
 倒産企業の審査は、基本的には書類審査です。倒産審査の場合、信用保証付き融資を受けた時から倒産まで一定の時間が経過していますから、書類量は少なくありません。保険金請求書は融資口毎の作成なので、借入件数の多い企業の場合、審査しなければならない書類は増えていきます。積み重ねて10cmほどの厚さになることも、あるほどです。

 そういうケースとして、ある零細な建設業者がありました。公共事業工事が減少していく中で頑張ってきた企業です。安定的な元請け先を確保していたようですが、工事の遅れや関係先への支払遅延を起こすと事業継続が不可能になるというシビアな世界なので、年に2回、資金調達する中で借入金は漸増傾向にあったことも仕方がないとも考えられます。


何となく資金調達できなくなった?

 では、なぜ倒産したのか?元請け先の倒産や工事不調等の原因を疑いましたが、そういう事情もないようです。倒産原因は「資金調達困難」ですが、貸し剝がし等はなかったようです。

 書類では「なんとなく倒産した」と感じた案件ですが、関係者から話を聞くと状況が見えました。メイン金融機関が不在のまま借入限度額を超えたのです。各金融機関は支店長決裁限度額まで支援し、それ以上は支援しなかったのです。


金融機関の事情

 なぜ金融機関は追加融資しなかったのでしょうか?しっかりとした信頼関係を築かずに一線を超えたのが原因です。それはなぜか?「金融機関を渡り歩いた」からです。この企業の借入明細表を見ると、残高がだんだんと増えていくにつれ、取引金融機関数も増えていることが分かりました。A金融機関から一定金額借り入れたら次はB金融機関から一定金額を借りる。そしてC金融機関、D金融機関と、借り入れている金融機関がどんどんと増えていったのです。

 「金融機関を渡り歩いた」理由を知るには、金融機関の意思決定方式を理解する必要があります。金融機関は融資申込みがあった場合、一般的に2つの融資限度額を設定します。一つは、自金融機関の融資限度額。もう一つは、企業の借入限度額です。

 自金融機関の融資限度には内訳があります。各金融機関は、まず、各支店の決裁権限金額を定めています。それを超えると本店審査部が審査します。この場合、いろいろな資料が求められるでしょう。経営計画書の作成を求められるかもしれません。


渡り歩きの危険性

 「ある金融機関に固執して本店審査部審査を受けると苦労するので、他の金融機関を探して支店長決裁で融資してもらう選択、合理的と思うのだが。」そうお考えになるお気持ちは分かりますが、金融機関の気持ちを察すると危険なことです。

 この例でA金融機関は、取引開始から支店長決裁限度まで、その会社と信頼関係を深めてきました。支店長決裁限度を超えて融資申入みがあった時「取引の継続は可能だが今後は審査部扱いになります。提出資料が増えるし、事業計画書の作成が必要かもしれません」と伝えたでしょう。支店関係者(担当者・役席・支店長)は、今までより手続きは増えるが事業改善に取り組んでもらうきっかけにもなると考え、本腰を入れて支援する覚悟を決めた上で、上の申し入れをしたと思います。

 にも関わらず、企業がB金融機関の扉を叩き、そちらで資金調達しました。B金融機関での支店長決裁限度を超えるとC金融機関、それも超えるとD金融機関と取引先を増やしていったのです。そうしているうちに、金融機関として「この企業が借入できると考えている限度額」を超えたとしたら、どうでしょうか?金融機関としては、手の打ちようがありません。「貴社が複数金融機関から借り入れた額を合計すると、当金融機関が考える借入限度額を超えています。新規貸付は困難です」としか答えようがないのです。これが、金融機関を渡り歩いた結果、なんとなく新規資金調達ができなくなって倒産に至ってしまう現象のプロセスです。


StrateCutionsが提案できるソリューション

 この建設業者はどうしたら倒産を避けられたのでしょうか?以下、この企業が例えば3金融機関との取引がある中で4つ目の金融機関と取引開始したいので支援して欲しいと相談してくれた場合に提案できる対策を簡単にまとめてみます。

 この建設業者が目指すべきは、4つ目の金融機関から借入を行うことではなく、メイン金融機関を作ることです。今まで付き合いのある金融機関の中に第2地方銀行や信用金庫など(地域金融機関)があれば、それらの中でメインとなってくれる金融機関を探します。新規借入を地域金融機関に依頼すると、今後に融資の可否判断を行うのは本店審査部になること、その場合には提出資料が増え、時には事業計画書の作成を依頼する旨を伝えてくるでしょう。その時は資料提供を厭わないこと、事業計画書も指導を受けながら作成し、しっかり実行する決意だと伝えます。事業計画書を求められた場合には、事業改善して金融機関に納得して資金協力してもらえる事業計画書を作成し、企業が確実に生まれ変わっていくことを目指します。

 事業改善して金融機関から支援してもらえる企業に生まれ変わろうとする企業に「早期経営改善計画」の策定を支援する公的制度も用意されています。「大きな負担のある取り組みをいきなり始めるのは難しい」と感じる場合には、2/3(上限20万円)の補助を受けながら始める方法が利用できるのです。是非、事業改善のきっかけを掴み、活用してみてください。


<本コラムの印刷版を用意しています>

 本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙2枚のボリュームで、表裏印刷すれば一枚にまとまるのでとても読みやすくなっています。また、コラム(本欄)ではコンパクトにまとめたStrateCutionsからのご提案等についても、支店決裁の場合にはなかった課題への対応や事業計画書の作成・実行方法等についてしっかりとご説明しています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。


 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


Webサイト:StrateCutions

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