創業260年の歴史を誇る亀田酒造。海外展開や酒蔵見学なども積極的に展開している=千葉県鴨川市
「日本酒離れ」が危ぶまれている。農林水産省によると、2015年の日本酒の年間国内出荷量は約55万キロリットルで、他のアルコール飲料との競合などにより、1998年の約113万キロリットルからほぼ半減した。「ピンチはチャンス。どんなところにも商売を変えられる契機は見つかる」。そう話すのは、江戸時代中期の1757(宝暦7)年創業で、全国唯一の明治神宮献上酒指定蔵でもある老舗中の老舗「亀田酒造」9代目当主の亀田雄司社長(60)。260年にわたる伝統に甘えず、常に革新に挑んでいる。
◆地元重視の経営
25年前、全国に先駆け、地元採用者による酒造りを始めた。それまでは、職人集団の南部杜氏(とうじ)に酒造りを任せる「杜氏制度」に頼っていたが、出稼ぎの杜氏は1年間販売する分の日本酒を造り終えると帰郷するため、売り切れた日本酒は欠品になり出荷ができなかった。
「1年中、日本酒造りを途切れさせることなくお客さんに売り続けるには、地元で造れるのが一番いい」。地元・安房の人材を醸し人として酒蔵に招き、1年を通して日本酒を醸せる「四季醸造」が可能な酒蔵となった。
地元社員での酒造りや四季醸造に、当初は「邪道だ」などと風当たりも強かったが、素材や製法、管理まで徹底してこだわり、その成果は「超特撰大吟醸・寿萬亀(じゅまんがめ)」に集約され、世界から認められた。食品の国際審査会「モンドセレクション」で2016、17年の2年連続で最高金賞を受賞。「社員たちと一緒にやってきたことが、間違いなかったんだと思えた。この上ない名誉だ」と話す。
また、「うちは酒のデパート。種類はしぼらない」といい、日本酒を豊富に取りそろえるだけでなく、焼酎、リキュールと、扱う商品ラインアップは幅広い。
商品開発に余念がない。トランペット奏者で“クワマン”として親しまれる人気タレント、桑野信義さんとコラボした本格焼酎「桑萬寿」のプロデュースや、純米酒から抽出したエキスを使った化粧水など、化粧品開発にも乗り出している。「小さい酒蔵だからこそ、小回りが利いた開発ができるのが強みだ。大手にはできない隙間産業を狙って、『ニッチだがいい商品』をどんどん作っていきたい」
同社が現在力を注ぐのは、国酒・日本酒の海外展開だ。「海に囲まれた安房で、国内だけでなく、海外に攻め出さないと疲弊してしまう」と、約15年前から米国などでの海外市場に販路を拡大。海外輸出を視野に、今年、マイナス20度まで冷やすことができる新たな冷房蔵を新設。11月中旬までに2棟が完成し、4合瓶計20万本を収納可能。いつ発注がきても迅速に出荷の対応ができる新たな強みを築いた。
◆観光の波に乗る
また、税制改正によって本年度設けられた、訪日外国人旅行者(インバウンド)に酒税を免税して販売できる制度「輸出酒類販売場」に、県内で唯一手を挙げた。海水浴場や水族館「鴨川シーワールド」を擁する観光地としての立地を生かし、インバウンド向けの酒蔵ツアーなど、海外客の取り込みを狙っている。
20年の東京五輪では、鴨川に近い一宮町でサーフィン競技が開催される。「インバウンドの増加が見込まれる中、日本酒を広められるチャンスが訪れつつある。今からワクワクしている」と力を込めた。(中辻健太郎)
【会社概要】亀田酒造
▽本社=千葉県鴨川市仲329
▽創業=1757年
▽設立=1954年6月1日
▽資本金=1000万円
▽従業員=21人
▽事業内容=酒の製造・販売
□亀田雄司社長
亀田酒造亀田雄司社長
■年間6万キロを走り回るのが仕事
--伝統を引き継ぐ社長として大切にしていることは
「日本酒の味の追求は、酒造りのセクションに任せている。私は百貨店やスーパーマーケットなどを訪問し、クライアントとのパイプをいかに太くしていくかを考える。年間6万キロを走り回るのが私の仕事だ」
--経営者としての座右の銘は
「『トイレは経営の鏡なり』だ。トイレが汚れているような整理や掃除ができない会社にいい仕事はできず、売り上げが落ちる。社員の意識を統一させるよう、毎朝、全員でトイレ掃除を行っている」
--造酒だけでなく、マッサージ店を開店するなど、手広くビジネスを展開している
「商売は面白いと思えないとダメだというのが私の考え。日本酒のエキスを使った化粧品の開発もそうだが、寝るのも惜しくなるくらい面白いことをやらないと。決めたら、すぐやる、必ずやる、できるまでやる。当主を引き継ぎ20年だが、これからもまだまだ新しいことに取り組みたい」
--今後の亀田酒造の方向は
「やはり海外市場への販路拡大を進めたい。国内市場が厳しさを増す一方、海外には可能性がまだまだ転がっている。今は海外での売り上げは全体の1%に満たないが、5年後には10%まで引き上げる」
--社員の特徴は
「1足す1が4になるように動くのがうちの社員だ。営業担当でも醸造担当でも、手が空いているときにはラベル貼りなどをこなす。マルチに動ける人でないと、うちで働くのは難しいと思う」
--好きな日本酒の飲み方は
「ぬる燗で、安房の特産品の、鯨の赤身肉を漬け込み干した『鯨のタレ』と一杯やるのがオツな飲み方」
--社長にとって、日本酒とは
「命の水」
【プロフィル】
亀田雄司
かめだ・ゆうじ
東京農大醸造学科卒。1980年亀田酒造入社。老舗の跡取りとして育ち、2000年に43歳で9代目当主に。以来約20年間、社長の椅子にあぐらをかかず、全国を駆け回って亀田酒造の味を広める。60歳。千葉県出身。
≪イチ押し!≫
モンドセレクションで2年連続最高金賞を受賞した「超特撰大吟醸・寿萬亀」
■入魂の一品「超特撰大吟醸・寿萬亀」 房総半島に広がる雄大な房総丘陵の一角をなす、愛宕(あたご)山から引いた軟水で作った日本酒ブランド「寿萬亀」。その中でも、2016、17年のモンドセレクションで、2年連続最高金賞受賞を果たした亀田酒造入魂の一品「超特撰大吟醸・寿萬亀」。
飲み口(日本酒度)はプラス5度だが、軟水であるため滑らかな甘さが広がりバランスのよい旨口。香り高くフルーティーな味わいで、後味もすっきりしている。
兵庫県三木市吉川町産(特A地区)の特等米を原料とし、アルコール度は17度。4合瓶(720ミリリットル)で価格は3800円(税抜き)。同社のホームページ(http://jumangame.com/)などから購入できる。
「フジサンケイビジネスアイ」