インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」の普及が加速してきた。ビットコインは、2012年まではおおむね1ビットコインは1000円に満たなかったが、最近では1ビットコインが28万円弱にまで急騰しており、その市場規模も約4.5兆円になっている。家電量販店の中には、ビットコインによる支払いを受け入れる店舗が現れ、ビットコインを現金化するATM(現金自動預払機)も設置されるようになった。
私は数年前に、ITと金融を融合させた新サービス「フィンテック」に関する相談を受けた折に、ビットコインはどういうものかを体験したいと思い、1ビットコインだけ購入したことがあった。その後、このビットコインを購入した取引所は閉鎖され、手元には購入したビットコインを示す文字列の羅列と2次元バーコードのプリントアウトだけが残っていた。
昨年のフィンテック法(資金決済法等の改正)が制定されたときに、これを思い出して、スマートフォンにビットコインのウォレットのアプリを入れて、バーコードを読ませた。ウォレットに1ビットコインが入り、このアプリを開くたびに、1ビットコインの表示と、日本円換算された金額が表示される。これを見て、中東や、アジアの富裕層が国外に資産を持ち出すにはもってこいのサービスだと感じた。
自分の資産をビットコインにしてスマホに入れて、飛行機に乗れば、どこの国でも資産を持っていける。多額の現金を持って税関を通る必要も、履歴の残る銀行振り込みをする必要もない。
ビットコインは発行体がないという通貨としては異例の特徴を持っている。このため、広く普及するには今後もある程度の期間を要するものと思われる。しかし、一般の通貨の発行体である政府の信用が絶対的なものでないことや、通貨間の為替変動によるリスクが認識されるようになって、一般の通貨に対する信用は相対的に低下してきた。
他方で、ビットコインが用いているブロックチェーン技術が堅牢(けんろう)なことや、入出金や送金の手軽さ、手数料の安さ、匿名性など、ビットコインには多くの利点があり、また、ITとグローバリゼーションの進展によって、グローバルなITネットワーク上に台帳方式によって記録される仮想通貨の方が安心で、どこの国でも使うことができるという使い勝手の良さは魅力である。
フィンテック法が4月1日から施行されたことによって、仮想通貨の取り扱い事業者は登録制になり、政府の規制の対象となった。事業者は、情報や資産の管理体制の整備などの要件を満たす必要があり、いよいよ仮想通貨も政府公認の通貨となった。これが普及へ追い風になることは間違いない。企業や個人も仮想通貨の使い方について考えてみる時期に来ていると思う。
【プロフィル】
古田利雄
ふるた・としお 弁護士法人クレア法律事務所代表弁護士。1991年弁護士登録。ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。東証1部のトランザクションなど上場企業の社外役員も兼務。55歳。東京都出身。
「フジサンケイビジネスアイ」