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【日本発!起業家の挑戦】安心して質問、開かれたネット作る 「OKWave」創業者・兼元謙任氏に聞く

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兼元謙任氏

兼元謙任(かねもと・かねとう)氏は1999年にOKWave(オウケイウェイヴ)を創業し、90年代半ばからインターネットの世界で起こっていた問題の対応に取り組んだ。日本人は日々の人間関係においては非常に礼儀正しいが、匿名空間のインターネット上ではその態度を一変させていたのである。特にインターネット初期には、ネット上にいじめや敵意、排除といった空気が充満していた。どの国でも同じような状況が見られたが、それは避けられない、むしろ自然な状態だと考えられていた。しかし、兼元氏は社会の闇にはびこり、特にインターネット上に蔓延(まんえん)する悪意あるやり取りを変えることを選んだ。インターネットが役立つツールであるだけでなく、多くの人を受け入れる寛容な場になった背景には、彼とOKWaveの働きがあった。

◆4000万人が利用

--OKWaveを知らない人に説明してください

「日本最大のQ&Aコミュニティーです。Oは教えて(質問)、Kは答える(回答)の頭文字です。約4000万人のアクティブユーザーが仕事や生活、そして恋に関する質問をしたり、それに回答したりしています」

--恋愛相談もあるのですか

「もちろん。“会社の上司が好きになってしまいました。どうしたら良いですか”という他の人に相談できない悩みや、“妊活中ですが行き詰まっています。アドバイスをください”など、とても個人的な質問が寄せられます。開設当初はIT関連の質問が多かったのですが、コンピューターや技術に詳しくない一般の人にインターネットが普及するにつれ、毎日の生活の中で生じる疑問が集まるようになりました」

--OKWaveは大変成功し、サービス開始6年で株式上場を果たしました。あなたが苦労して起業したことを多くの人は知らないと思います

「私が会社を作り上げたのと同じぐらい、会社が今の私を作り上げてくれたと思っています。私は日本人ですが、在日韓国人として生まれました。小学生の頃に両親が私を帰化させるまでは、誰も私の国籍のことは知らず、言われることもありませんでしたが、私がもともと日本人でないと分かるとクラスメートたちからひどいいじめを受け始めました」

--何が起こっているのか分からず、つらかったでしょう

「はい。両親は自分たちのように進学や就職で不利にならないようにと考えて、私の国籍を変える決断をしてくれたのですが、それによっていじめが始まってしまいました。私は10歳で、自分で経験するまで偏見がどんなものかイメージできていませんでした」

--社会になじまないアウトサイダーとして育つことで人とは違った考え方ができ、起業家としては利点になると言う人がいますが、あなたの場合はどうでしたか

「私の場合はそうとはいえません。他人を信用することや心を理解することが、すごく難しくなったからです。芸術大学を卒業し、就職先にも恵まれてデザイン会社のGKや塗装会社で働きましたが、満足することはできませんでした。私のデザインが受け入れられていないと感じ、退職しました。当時、雑誌で読んだソフマップ社長の言葉に共感し、本人に出会う機会に恵まれ、デザイン会社を立ち上げる話になりました。そこで、名古屋から東京へ出ることにしたのです」

--それから

「引っ越しに反対した妻から、離婚を迫られました。ひとりで上京した私は、判断を誤り、結局仕事を得ることもできず、東京では、駅の近くや公園に住むようになりました」

--ホームレスということですか

「そうです。日本に引っ越してきたという中国人女性に会ってやる気を取り戻しました。彼女は、日本で生まれた私は恵まれた環境にあったのに、なぜ今公園なんかに住んでいるのかと私を叱りました。弱さを指摘され、挑戦せずに他の人の意見を言い訳にしていることに気付かされました。知り合いに電話をかけて、フリーランスでデザインの仕事を再開しました。報酬は少なかったですが、そこから始めました」

◆BBS体験が契機

--OKWaveにどのようにつながっていったのですか

「あるときウェブサイトを作る仕事を引き受けました。ウェブデザインの経験はなかったのですが、仕事を選べる立場ではありません。とはいっても分からないことが多かったので、基本的な質問をオンラインでするようになりました。インターネット普及前のBBS(電子掲示板)の時代です。今では分からないことがあればネットコミュニティーに頼るのも当たり前になっていますが、当時の人々は新参者に冷たく、“こんな質問でわれわれの時間を無駄にする権利はおまえにない”と怒られました」

--いつも礼儀正しくしている日本人が、ネット空間で匿名になるとひどくたたき合うことに驚きます

「そうですね。かつては今よりもひどかった。そこで、誰でも安心して質問ができるサイトを作りたいと思ったんです。しかし、誰もそんなものがうまくいくとは思わず、ベンチャーキャピタリストや個人投資家からは、無料で質問に答える動機は誰にもない、はやらないと諭されました」

--自己資金で始めることにしたのですか

「2年離れていた愛知に妻を訪ねました。それまでのことを謝り、東京での生活やこれからの計画を話したかったのです。私が送ったお金を妻は貯金していて、それを差し出してくれたのです」

--それは大きなプレッシャーですね。奥さんの貯金を失うのと投資家のお金を失うのはわけが違います

「はい(笑)。文字通り、失敗は選択肢にありませんでした。2000年1月にサービスを正式に開始し、登録者は順調に伸びましたが、赤字が続き苦労しました。楽天の出資を受け、三木谷浩史社長から多くのことを学びました。法人向けのヘルプデスクサービスや社内の情報共有サービスを販売し、そこで売り上げを伸ばして、私がどうしてもやりたいと考えた一般向けのQ&Aサイトを存続させることができたのです」

--ネット空間は親しみやすくなりましたが、社会一般の偏見はどうですか

「問題がなくなったわけではありません。しかし、幸い、私の子ども時代に比べれば韓国の文化に親しみを持つ人が格段に増えています」

--シリコンバレーでは移民が創業メンバーとして活躍しています

「そうですか。韓国人の友達も、その多くが誰かの会社で働くよりも何か新しいことを始めたい、新しい会社を始めたいと挑戦しています。日本では教育の場で、画一的な将来像を示すことよりも、新しいものを作り上げる力を養えるようにしてほしいと思います」

今となっては考えにくいことだが、90年代半ばには、投資家やインターネット起業家たちでさえ、インターネットが開かれたフレンドリーな空間になることを予測することができなかった。恐らく、インターネットは日本のビジネス文化を反映し、閉鎖的なコミュニティーと深く結びついた同盟関係の寄せ集めになると考えられていたのだろう。

海外にあっても、Q&AサイトのQuora(クオラ)や、法人向けヘルプデスクのZendesk(ゼンデスク)が成功するようになったのは、OKWaveからほぼ10年後のことだ。兼元氏は、開かれたネット空間のイメージを他の人に先駆けて描き、その実現のためにまさに人生を賭けたといえる。知らない人が安心して質問でき、知っている人がそれに答えるというネット上のやり取りが日本で当たり前になったのは、彼の功績によるところが大きい。


文:ティム・ロメロ
訳:堀まどか

                   ◇

【プロフィル】
ティム・ロメロ米国出身。東京に拠点を置き、起業家として活躍。20年以上前に来日し、以来複数の会社を立ち上げ、売却。“Disrupting Japan”(日本をディスラプトする)と題するポッドキャストを主催するほか、起業家のメンター及び投資家としても日本のスタートアップコミュニティーに深く関与する。公式ホームページ=http://www.t3.org、ポッドキャスト=http://www.disruptingjapan.com/

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