東京と埼玉・神奈川県の一部を事業区域に、地域社会の発展に貢献する西武信用金庫。今年度からスタートした新中期3か年計画では「メイン先(顧客)を守る態勢の強化」を重点方針のひとつに掲げ、お客さま支援センターのビジネスモデルの活用によって真の協同組織金融機関の実現を目指している。幅広いネットワークを生かし顧客の事業成長と地域経済の活性化に積極果敢に取り組む西武信金の経営・事業戦略を紹介する。
落合 寛司理事長
トップインタビュー 落合寛司理事長に聞く
リスクを恐れず一緒に課題解決―お客さま支援センターが果たす役割は
「少子高齢化の進展や人口減少に伴い、日本では多くの業種でマーケットの縮小が懸念されている。また、顧客がグローバルスタンダードでの戦いを余儀なくされた場合にも備えなければならない。厳しい経営環境が続く中で、地域の金融機関としては顧客の事業競争力を引き上げるため、幅広いネットワークを活かした付加価値の高い支援メニューを提供していく。そうすることで、事業者や住民に対し実効性の高い支援を展開していくのが狙いだ」
―支援の中身も多様化している
「顧客のニーズや業容、規模、状況は千差万別だ。コンサルティングの中身も、顧客の本業支援という側面と副業の創設や機能強化、その両輪が重要になっている。前者は商品力やセールス力のアップ、海外進出のサポート、知財活用などカバーする領域が広がっている。とくにここ数年は、事業の後継者不在で困っている企業からの相談が増えており、自主廃業せずに事業継続するスキームをともに考えている。副業の支援では、不動産活用による収入の安定化、保有技術の産業応用の拡大などのコンサルティング業務が多い」
―顧客の課題解決に向け、具体的にはどのような対応をとっているか
「弁護士、行政書士といった国家資格を持つ各種士業の団体をはじめ、さまざまな分野の専門職など計3万人を超す専門家と連携し、案件ごとに最適な専門家を派遣できる体制を整えている。人材のマッチングによって顧客の課題解決につながることが多く、たとえば製品開発で悩んでいる企業には、専門のエンジニアを紹介する。販路開拓で困っている企業には販路を持っている人材を紹介するなど、前年度は年間6000件近いマッチングを実現した」
―金融機関として負担も多い
「これまで金融機関はあまりにもリスクを避けすぎてきた。リスクを仕方なく負うのではなくリスクを恐れないこと。それでこそ、顧客と一緒にさまざまな難問を突破できることのほうが多い。顧客の事業発展と地域経済全体の活性化、その循環を大きくしていくのがわれわれの使命だと考えている。そのためにも景気の波に左右されない強靭な経営体質の構築と、レベルの高い総合コンサルティング能力を身につけた人材の育成に力をいれていく」
《プロフィル》
おちあい かんじ 1950年神奈川県生まれ。亜細亜大学卒。1973年西武信用金庫に入り、立川南口支店長、2005年専務理事、2010年理事長に就任。
西武信用金庫概要 (2016年3月末現在)
創業=1939年
店舗数=本店を含め72店舗
従業員数=1164人
貸出総額=約1兆2500億円
預金総額=1兆6436億円
営業エリア=:東京都全域(島しょ地域を除く)、神奈川県川崎市多摩区、麻生区、高津区、宮前区、中原区、横浜市港北区、都筑区、相模原市、愛甲郡愛川町、埼玉県所沢市、新座市、入間市、飯能市、朝霞市、和光市、狭山市、日高市、川越市、鶴ヶ島市、入間郡毛呂山町・三芳町
「お客さま支援センター」とは
お客さま支援センター
地域で活動する事業者の課題解決への取り組みを示す「事業支援」、豊かで魅力あふれる街の創出に向けた課題解決への取り組みを示す「街づくり支援」、個人顧客の課題解決への取り組みを示す「資産形成・管理支援」で構成。
坂本 常幸執行役員、支店長
当支店は、東京メトロ丸ノ内線の淡路町駅や都営地下鉄新宿線の小川町駅から徒歩約1分という交通至便なビジネス街に店舗を構え、再開発を終えて新しい街に生まれ変わった秋葉原周辺を北限に、南は内神田、東は岩本町、西は神保町界隈までが営業範囲です。支店職員数は13人。顧客数は約1000件で、うち95%は法人です。
ITサービスや卸売、不動産業が多くを占め、業態転換や販路開拓、コスト削減策、事業承継、海外展開、補助金など幅広い分野で月平均約50件の相談が持ち込まれます。土地柄から、地域相続税対策や老朽化ビルの建て替え、不動産活用についての相談も多いですね。
このエリアは老舗企業だけでなく、近年ではベンチャー企業の集積も進んでいます。それだけに、創業期や成長期、成熟期といった顧客企業のライフサイクルによって生じるさまざまな経営課題をしっかりとお聴きし、本部や専門家とも連携をとりながらソリューションを提供しています。例えば、海外進出を検討している企業に対しては、中小企業診断士を派遣してのバックアップや関連補助金制度の活用などを積極的にアドバイスしています。
最近の一例としては、ベトナムに工場建設を検討している顧客企業に対し、国際協力銀行(JBIC)と共同で事業計画を作成し、事業資金を融資しました。JBICなど政府系金融機関と組んでの企業支援は当金庫でも初めてのケースです。
顧客企業同士の連携やマッチングを目的に、若手経営者の会合も頻繁に開催しています。こうしたことが新たなビジネス機会の創出につながっています。地域密着が何より求められる信用金庫にとって、地元企業の支援は重要課題の一つです。そのためにも地域での知名度と浸透度をさらに引き上げ、全方位で地元企業をサポートしていきたいと考えています。
【取引先紹介】
◎アクセルスペース
代表取締役社長 中村友哉氏
超小型衛星や関連コンポーネントの設計・製造のほか、打ち上げアレンジメント・運用支援・受託、超小型衛星を活用したソリューションの提案と地球観測などを主体としたベンチャー企業。2008年8月に創業し、西武信金とは運転資金面などで取引がある。 100㌔㌘以下の超小型ながら地上分解能2.5㍍の地球観測が可能な衛星を2機打ち上げ、今年3機目を予定している。
これまでは企業と組んだ個別目的向けが中心だったが、事業拡大を狙いに新ビジネスを計画。22年をめどに超小型衛星50機で毎日地球を観測する『Axel Globe』というプラットフォームの構築と関連サービスを始める予定だ。その費用として調達した総額19億円の一部も西武信金の関連ベンチャーキャピタルが出資した。
本社=東京都千代田区小川町2-3-13 M&Cビル7階
代表取締役社長 中村友哉氏
☎03・5577・4495
◎ユニカホールディングス
代表取締役社長 安見義矩
コンクリートドリルやコアドリル、ホールソーなど各種電動工具の先端ツールや、アンカーなど建設ファスニング資材のメーカー。世界各国に販路を広げ、インドに販売拠点、中国とベトナムに製造・販売拠点を持つ。
ベトナムでは、日系の中小企業に土地と工場建屋をレンタルし、各種マネジメントも請け負う工業団地「ビーパン・テクノパーク(VPTP)」を西武信用金庫と国際協力銀行(JBIC)の協調融資で2013年に設立、「Factory1」ゾーンを開業した。2016年10月には「Factory2」も完成予定。西武信用金庫はアジアでの拠点開設を検討している顧客にVPTPの活用を提案しており、同社の良きビジネスパートナーとなっている。
本社=東京都千代田区岩本町2-10-6
代表取締役社長 安見義矩
☎03・3864・8722
「フジサンケイビジネスアイ」