総務省は来年度から、企業が人工知能(AI)を事業や技術開発に低コストで活用できるようにするAIプラットホーム(基盤)の構築に乗り出す。世界最高水準の言語処理能力を持つ情報通信研究機構(NICT)の国産AIを活用。分野ごとに仕様を標準化した基盤を構築する計画で、来年度予算の概算要求に関連予算12億円程度を盛り込む。日本の大手企業に国産AIの活用を促し、欧米とのAI開発競争で先行したい考えだ。
AI基盤は、NICTが既に実用化している音声認識と自然言語処理の2つのAI技術を活用。防災や健康、ロボットや自動車など各分野ごとで応用しやすいように標準化して構築する。既にNTTやNECなどのIT企業や国内自動車メーカーが同基盤を利用する予定だ。
このAI基盤の活用により、近年多発するゲリラ豪雨などの災害時に、インターネットの会員制交流サイト(SNS)に個人が投稿した膨大な被害情報を早期に分析して実態を警察や消防に伝えるシステムの開発などが期待できる。また、訪日外国人がスマートフォンなどでAIと会話し、その人にお薦めの観光スポットや料理をAIが紹介するサービスなどが来年度にも実用化されるという。
将来的には、「地球温暖化が進むと、どの分野での企業買収を進めるべきか」などの問いかけに、AIが適切な助言をしたり、ある経営判断が法例違反にならないか即座に警告したりできるようになる見通し。実現できれば、自動車メーカーは、排ガス規制などへの適切な対応が早期にできるようになる。
政府はAIを成長戦略の柱と位置付けており、理化学研究所などの研究機関や、トヨタ自動車など大手企業によるAI開発を来年度以降、支援する方針。総務省としては、既に確立されたNICTのAI技術を活用することで、さまざまなサービスの早期の実用化が見込めるとしている。
AI開発では、米IBMの「ワトソン」などが先行しており、日本企業も活用している。しかし、NICTの国産AIは、日本語の処理などで優位性は高い。企業に活用を促すことで、「海外のIT企業による日本のビッグデータの独占を防ぐ」(総務省幹部)ことも期待できる
AI基盤で期待される主な実用化事例(連携先の企業団体/事例)
災害対応省庁など/ゲリラ豪雨など大災害の被害状況の早期把握
自動車メーカーや通信事業者/車内の対話相手
旅行関連企業、地方自治体/訪日客向けの観光案内
コンサルティング会社など/法令違反の指摘
大学や研究所/科学の未知の分野の研究提案
金融機関/金融経済の未来予測
「フジサンケイビジネスアイ」