サーキュレーション 代表取締役 久保田雅俊氏
地方の中小企業が抱える課題の中で、特に難しいのが「新規事業開発」だ。取り組み方としてよくあるのは、「社内の人材だけで新規事業を推進する」ことだが、それでは革新的なアイデアや新しい成果は生まれにくい。だからといって、労働人口の減少が続く中、新規事業に精通し専門性を持った人材を採用するのは難しい。
私が中小企業の社長に「新規事業開発は進んでいますか?」と聞くと、「進んでいるよ。即戦力人材の中途採用に向けて動いている」という答えがよく返ってくる。しかし、イノベーションを担うような人材は転職市場にはなかなか出てこない。現職の会社で高く評価されているはずだし、仮に転職市場に出てきたとしても採用するまでには高いコストと長い期間を要する。
「役員やエース社員に任せている」と話す経営者もいる。兼務で担うことが多いため、思うように進まず気づけば途中で頓挫していることが多いパターンだ。「新規事業に関する社内コンペを開催しよう」というやり方も同じ。50人の社員を集めてアイデアを出し合っても、限界があるだろう。これまで同じ事業に従事してきた、同じ志向を持っている社員に、経営者以上の新規性を求めるのは容易ではない。
だからこそ、外部の知見を活用する「オープン・イノベーション」が大切なのだ。新規事業では、経営者も知見のない新しいマーケットに打って出ることになる。そのマーケットに精通した人材の力を借り、専門性を生かしてプロジェクトを実行していくことが重要だ。事業化の推進役として事業開発の経験者を入れたり、WEBサービス開発であればIT関連に明るい人材を迎えたりすることも必要だろう。さらにはマーケティング施策の実行や販路の拡大など、実働支援ができるプロ人材も欲しい。その過程で社内の組織設計や担当者の育成も行う。一過性のコンサルティングではなく、実働支援により継続的に新規事業を作ることのできる体制を自社内に作るのだ。
これら各分野のプロ人材は、地方の中小企業であっても、外部から迎え入れることができる。これは従来型の雇用ではなく、「期間限定」や「プロジェクト単位」で参画するからこそ可能だ。プロ人材が一カ所に縛り付けられるのではなく、同時に複数社で活躍することができるためである。こうした提案によって、新たな人材リソースが、実際に地方の中小企業の課題解決につながっている。「個人の経験や知見をシェアする」動きは、今後ますます広がっていくだろう。
【プロフィル】
久保田雅俊くぼた・まさとし
サーキュレーション代表取締役。1982年生まれ。総合人材サービス大手を経て2014年にサーキュレーションを設立。設立2年半で、国内最大規模となる1万人の独立専門家ネットワークを構築、経営支援実績1000件を突破。15年、「北尾賞」を受賞。オープン・イノベーションコンサルタントとして講演多数。
「フジサンケイビジネスアイ」