外資系航空会社に勤務する客室乗務員(CA)たちに呼び掛けてネットワークをつくり、請負先の企業のPRなどをしているのが「AirSol(エアソル)」(東京)だ。社長の片山裕子さん自身もフランスの航空会社にCAとして勤めている。現役ならではの国際感覚や人脈、情報収集力が高い評価を受け、活躍のフィールドを広げている。
「AirSol」社長で現役CAでもある片山裕子さん=大阪市内
◆珍しい外部業務委託
片山さんはフランスの航空会社でCAとして勤務する傍ら、会社経営の知人から海外で市場調査をする仕事などを依頼され、個人的に引き受けていた。そのうちに客室乗務員として培ったさまざまなスキルが、乗客をもてなすこと以外にも役立つことに気づいたという。
CA仲間も同様の依頼を受けており、経験不足などから断っているケースが多いことを知った。そこで依頼を受け付ける窓口を一本化し、あらかじめ登録しているCAの中から、それぞれの強みを生かせる案件を割り振るビジネスモデルを思いついた。現在、外資系航空会社に勤務する日本人CA約150人が登録している。
起業当初は、通訳など語学力を生かす案件が多かったが、現在はマーケティングや商品PR、国際展示会の補助業務などを幅広く手掛ける。CA限定の珍しいアウトソーシング(外部業務委託)サービスとして注目を集めている。
伊藤忠食品の「食べるコスメオイル」シリーズのPRにあたっては、日本人になじみの少ないオイル類にもかかわらず、担当したCAたちがお薦めのレシピなどを多く提案し、同社の担当者らを驚かせたという。
それ以外の商品についても、CAのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の投稿などがきっかけとなって大手インターネット通販で上位になるなど、ヒット作を連発している。
片山さんは「CAの周りには影響力のある人が多いから、情報が拡散されやすい」と説明する。
同社はもともと卸売りが専門だったため、一般の消費者をターゲットにしたPRはあまり経験がなく、国内外の流行に敏感なCAからの提案は貴重という。
◆中小の経営も後押し
片山さんは、エアソルに協力するCAにとっても、日頃培ったスキルを業務以外の場で活用し、自身の新しい可能性を発見する有益な機会となることを願っている。
片山さんは「世界に通じるビジネスを展開している中小企業は多いが、人材不足や予算の関係などにより、海外進出に二の足を踏んでいるところもある。そんな企業に『世界中に駐在員がいる』というイメージでエアソルのサービスを活用してもらいたい」と話している。(栗井裕美子)
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≪Q&A≫
■お客さまに寄り添う姿勢で
--本業と副業の両立に積極的だ
「6月は1週間で世界の5都市を移動した。CAとしてフランス・パリ-カナダ・モントリオール間の往復のフライトに従事した後、副業の打ち合わせでシンガポール、東京、大阪に移動した。仮眠が2時間という日もあったが、訪問先のドアをくぐった瞬間にテンションが上がった。体力的には持ちこたえている。間食はせず、栄養管理に気をつけているのがいいのかもしれない。休日はあまり取れないが、両立するのがとにかく楽しい」
--副業を始めて感じるようになったことは
「経営者と従業員の両方の考えが理解できるようになった。同僚の意見はさまざまだが、所属する航空会社は社員を大切にする姿勢があると気づき、以前よりも誇りと愛着を持つようになった。起業などをきっかけに人生で大事にしていることを考える機会にもなった。会社は小さくてもいい。みんなが損をせず、いい方向で取り組める案件を扱いたい」
--やりがいは
「誰かの役に立っているというのが、自分にとって心地良い状態と感じている。エアソルでは、自分が依頼案件をまとめて、それぞれのCAの強みに応じて仕事を振り分ける。得意な人が得意なことをするのが効率的だ。各自の得意を見極めるのが、『このお客さまにとって何が必要だろうか』と寄り添う接客姿勢につながり、自分の最も得意なことだ」
【プロフィル】片山裕子
かたやま・ゆうこ 上智大を卒業後、フランスの航空会社に入社し、客室乗務員として勤務。外資系航空会社に勤める仲間に呼び掛け、2015年、AirSol(エアソル)を立ち上げた。35歳。ベルギー・ブリュッセル市出身。
◇【会社概要】AirSol
▽本社=東京都千代田区神田司町2-6神田平沼ビル4階
▽創業=2015年10月
▽資本金=500万円
▽従業員=1人
▽事業内容=販促支援、市場調査委託など
「フジサンケイビジネスアイ」