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目指すは特殊加工の「グローバルニッチ」

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大阪府や奈良県の境に位置する和歌山県橋本市。同市高野口町は、新幹線の座席にも使われているパイル製品の生産地として知られているが、他にも魅力的な産業がある。この地に社屋を構える平家製作所では、FRP(繊維強化プラスチック)丸棒の「センタレス研磨」技術などを使って、さまざまな製品を作っている。


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加工後の製品は念入りに確認する=和歌山県橋本市

◆全国2社だけの技術

FRPとは、ガラス繊維などをプラスチックの中に混ぜて強度を上げた複合材料のこと。機械で動かす砥石(といし)と砥石との間に、FRP製の丸い棒を挟んで研削するセンタレス研磨の加工技術は、国内では同社を含め2社しかないニッチ産業だという。

5月に地元のJR高野口駅などで行われたイベントでは、パイル製品とともに、釣り竿(ざお)で使われるカーボン製の穂先も展示し、存在をアピール。同社自慢の技術で作られた逸品だ。「国内におけるカーボン製の穂先の約9割はうちで作っているのでは」と平家利也社長は言う。

穂先だけでなく、同社は発注先の多様なニーズに応えて、製品を仕上げている。注文内容も前例がないものが多い。そのため素材を加工するにあたり、中古の機械を購入し、研磨などがしやすい機械になるように改造していくという。頼まれたものを作るので、これといった名称の製品はない。いわゆる「OEM(相手先ブランドによる生産)」のメーカーだ。

平家社長は「うちのお客さんは、とくに関東と海外が多い。あくまで取引先からの注文に合わせて作っているので、実際何に使用されているのかほとんどわからないんですよ」と笑う。

社内では作業服姿の社員らがそれぞれの持ち場で研磨機を使って黙々とカーボンを磨いていた。仕入れた素材を注文に応じた長さに磨いて細くした上で、円錐(えんすい)状に加工していった。

◆常に前を見て

創業は1969年。父の清市さんが、釣り竿の穂先を作るレジャー産業製品メーカーとして立ち上げ、のちのバブル景気もあって、需要は増え、業績を伸ばした。

平家さんが社長に就任した後もしばらくは順調だったが、リーマン・ショックに加えて、東日本大震災の発生で、東日本側で釣り竿の売り上げ自体が落ちたこともあって需要は減った。

しかし、平家社長は前を見ていた。「売り上げに任せたままでいると、細かいチェックが抜けてしまうから」と気を引き締め、技術の向上や作業の効率化などに努めた。今では精密機器の部品やスポーツで使われる道具なども製作している。

同社の技術は2014年、和歌山県内の中小企業が持つ優れた技術を対象にした和歌山県産業表彰制度事業「1社1元気技術」にも登録されたほど。

ニッチ産業のため、先代のときはできるだけ知られないように「ものづくり」を進めてきたそうだが、平家社長は「これからの時代は存在を知ってもらうことが必要」と感じ、2年前に自社のホームページを立ち上げた。新しい顧客を開拓でき、顧客数は3年前の2倍以上に増えた。欧米にも輸出する高級品を扱う中国の釣り竿メーカーとも取引が始まったという。

「ニッチ産業だからといって、そこに止まっているだけではいけない。もっと視野を広くし、新しいものを感じるアンテナを持たないと…。目指すは『グローバルニッチ』。世界のニッチに携わる仕事がしたい」と意欲を見せた。(山田淳史)

                   ◇

【会社概要】平家製作所

▽本社=和歌山県橋本市高野口町応其122

(電)0736・43・1511

▽設立=1981年2月

▽資本金=1000万円

▽従業員=12人

▽売上高=約1億3000万円(2015年9月期)

▽事業内容=FRP丸棒センタレス研磨など


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平家利也社長

 ■ボトムアップしやすい環境づくり

--企業理念は

「日本の『ものづくり』を武器に、製造の海外シフトが進む厳しい環境の中でも勝負できる強い企業として、グローバル化するマーケットに対応していくこと。人の成長が企業の成長につながるという理念も持っており、人材の底上げにも取り組んでいる」

--心掛けていることは

「『凡事徹底』。なんでもない当たり前のことをきっちりやる。シンプルだけど、とても大切なことだと思う。人材やお金が中央に持っていかれている状態なので、スーパースターはいないのかもしれない。だから、あいさつや言葉遣いに気をつけるなど当たり前のことをして、人とのコミュニケーションを図り、思いやりを持って人と接していくことを心掛けている。それに気付いた社員一人一人が行動して結果を出していけば、社員や社のステップアップにつながっていくと思っている」  --社員向けに「お誕生日会」を開いている  「誕生月にあたる数人で店を決めてもらい、僕が接待している。社員の年齢層は幅広く、年齢の差で普段は接点のない社員同士でも、お誕生日会の店選びでは話さざるを得なくなる。それがきっかけで交流が深まるというメリットも生まれる。また、店を自分たちで決めて、社長の僕に伝えてもらうことで、トップダウンではなく、ボトムアップしやすい環境を作りたいという思いもある。自主性を持って考えて働ける社会人になってほしいので」

--展望は

「釣り竿の穂先を研磨する技術を全世界に知ってもらえるようになること。また、あらゆるものがインターネットでつながる『IoT』(Internet of Things)の産業の波に乗って、弊社が作る軽くて丈夫で腐らない上、強度も高いところが魅力のカーボン製品の需要が高まってほしい」

【プロフィル】平家利也

ひらや・としや 神戸国際大卒。大阪府池田市の自動車部品製造販売会社で2年間勤務した後、飲食店や地質調査のアルバイトなどを経て、1998年平家製作所に入社、2004年から現職。45歳。和歌山県出身。

                 

 ≪イチ押し!≫


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カーボン製品

■釣り竿の穂先はじめ受注に対応

釣り竿(ざお)に使用されるカーボンやグラスソリッドの穂先などを製作している。自慢のセンタレス研磨などによって、要望に応じた製品作りに力を入れている。穂先にメーカー名が入れば、その社の製品となる。

「中国製の安い穂先が登場して押されている一方、中国人が日本製の高くて質のいい穂先を買う傾向が出ている」と平家利也社長。

父・清市さんの頃から始めた穂先作りをメインに、今ではアンテナカバーやカーボンパイプなど、発注先からの依頼に応じてさまざまなカーボン製品を作っている。この穂先以外は一見、何の製品かわからないかもしれない。

紙面では明かせないが、聞いてみるとびっくり。われわれが生活している中で、思わぬ場所で平家製作所の製品が使われていたりするのだ。

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