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社員のボーナス査定にユニーク手法

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社内の「カフェ」で談笑する社員。部署の垣根を越えたコミュニケーションは重要な評価指標だ=群馬県富岡市

□広告デザイン制作のマルキンアド

世界遺産の富岡製糸場(群馬県富岡市)から北へ車で約10分。広告デザインを手掛ける企業があるとは思いもよらない山の中に「マルキンアド」はオフィスを構えている。顧客の約7割が都内の企業であるにもかかわらず、アクセスがいいとはいえない山中の創業地にこだわりを持つ。営業にはノルマを課さず、型破りな経営スタイルが特徴の同社は、社員のボーナス査定制度にもユニークな手法を取り入れている。

◆通信簿で点数評価

マルキンアドのボーナス査定制度は「ミケランジェロ」といい、「万能人」と呼ばれたイタリアの芸術家、ミケランジェロにちなんで名付けられた。

ボーナスを査定するのは社員全員で、一人一人がそれぞれの社員に通信簿をつけていく。

評価項目は、(1)基本(2)積極性(3)コミュニケーション(4)能力(5)成果-の5つで、各8点の40点満点。

社員1人に他の全員がつけた点数の平均値が個人の獲得点数になり、この点数がボーナスの支給額に直結する。

計算方法はシンプルで、各人の獲得点数の和を分母、個人の獲得点数を分子として算出した割合に、会社としての支給総額を掛ける(支給額=支給総額×獲得点数/各人の獲得点数の和)。

各項目にはさらに5つの設問が用意されているが、内容は役職、年齢、性別に関係なく共通で、上司、同僚、部下それぞれから査定を受けるため、「上司にだけいい顔をしても駄目」(山田勝博社長)だという。

例えば評価項目の一つ、「基本」の中には「いつも笑顔で、機嫌良くしていた」(1点)といった設問があり、「コミュニケーション」の中には「担当部署を超えて、自分から世間話ができた」(2点)といった項目もある。どれだけ仕事で成果を上げたとしても、日ごろの態度や振る舞いが良くなければ、高得点にはつながらないようだ。

ミケランジェロを社員はどう受け止めているのか。ウェブプログラマーの大井康太さんは「パソコンに向き合う時間が長い仕事だが、自分がどんなふうに見られているのか、周囲のことを自然と気にかけるようになった」と好意的な評価をしている。

査定後は、項目ごとの点数を五角形で示したレーダーグラフを配布し、社員それぞれが自身の強み弱みを把握することに役立てる。

ミケランジェロを導入した狙いについて山田社長は「自分自身を客観視し、理想とするビジネスパーソンになるために明日から何をしていけばいいか、そういったことを考える機会をつくりたかった」と語る。

◆部署の垣根越え交流

同社のユニークな取り組みはボーナス査定だけにとどまらない。社員同士のコミュニケーションを促すため、毎月1度「ハッピーアワー」「ハッピーランチ」という交流の場も設けている。ハッピーアワーは夕方、午後6時ごろから始まり、社内の「カフェ」に菓子やピザなど社員が好きなものを持ち寄って集まり、談笑する。

ハッピーランチは月ごとにくじ引きを行い、4人組のグループを作る。その4人でランチに出かけるのだが、いつ、どこに行くかは4人で話し合って決め、費用は会社が負担する。

いずれも部署の垣根を越えたコミュニケーションを大切にする同社の姿勢が如実に表れている事例だといえる。(大橋拓史)

                   ◇

【会社概要】マルキンアド

▽本社=群馬県富岡市下黒岩289((電)0274・60・1311)

▽設立=1996年12月8日

▽資本金=2300万円

▽社員=25人

▽売上高=4億3000万円(2015年9月期)

▽事業内容=ホームページ、デジタルコンテンツ事業、各種印刷物の企画・デザイン・制作・印刷など

≪インタビュー≫


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山田勝博社長

 

■公平で分かりやすい制度に

--「ミケランジェロ」を導入しようと思ったきっかけは

「中小企業のボーナス査定はたいていの場合、経営者の独断に基づいて行われている。誰にとっても公平で、自分のボーナスがどういう基準で支給されているかが分かりやすい制度を作りたいという思いがあった」

--既に3回実施したというがどんな感触だったか

「驚くことに、社員全員がつけた評価と、私が事前に考えていた評価にはほとんど差がない。キャリアが長い人には長いだけの点数がついている。この制度は従業員50人ぐらいが限界かもしれないが、『社員はお互いのことをよくみているんだ』と実感した」

--「ハッピーアワー」「ハッピーランチ」もユニークな取り組みだが、狙いは

「弊社の創業は1973年で、もともとは印刷会社だった。かつては従業員が5、6人という時代もあったが、そのときは夜遅くまで一緒に仕事をして、終わったらみんなでファミレスに行くといった具合に、自然とコミュニケーションが取れていた。今の職場では、デザイナーなどはどうしてもパソコンに向き合う時間が長くなってしまうが、部署を越えてコミュニケーションができる仕組みを作りたかった」

--顧客の大半が都内ということだが、不便はないか

「デザイン部だけ1度、高崎市(群馬県)に出したことがあるが、結局元に戻した。今やネットの時代で、場所は関係ない」

--今後の目標は

「目標は特にない。目標を設定すれば、それだけ人間が小さくなってしまう。うちの会社は営業にもノルマを設定していないが、ノルマなんか設定しなくても、社員はみんな頑張っている。当たり前のことを当たり前にやることが大切だ」

【プロフィル】山田勝博

やまだ・かつひろ 群馬県立吉井高校を卒業後、都内のイベント会社に就職。1996年に父の跡を継いで社長に就任し、社名を「マルキンアド」に変更する。座右の銘は「想うこと、思い続けること」。54歳。群馬県出身。


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端末に向かう社員。印刷機を手放し、企画・デザイン力に磨きをかける

 

 ≪イチ押し!≫

■企画・デザイン力に強み

印刷会社として創業したが、2002年に全ての印刷機械を手放し、印刷部門をファブレス化した。これによりマルキンアドは企画・デザインに特化することになり、広告デザイン会社として生まれ変わった。当時の状況について山田社長は「印刷会社というイメージを払拭する必要があった。例えばポスターの印刷を受注するにも『A社ならいくら、うちならいくらでできます』といった具合に、価格競争に巻き込まれざるを得なかった」と振り返る。

虎の子の印刷機を手放すことにより、印刷は外注し、経営資源は価格競争に左右されにくい企画・デザインに集中させて、背水の陣を敷いた。

「世の中が変わっていく中で、変わらないわけにはいかなかった。うちのイチ押しは企画力とデザイン力だ」と山田社長は胸を張る。

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