多言語化を制するものがグローバル化を制する

第6回

言語ごとにある、豊かな「世界」

上田輝彦 2016年10月26日
 
「一つの言語しか話さないのは、巨大な邸宅に住みながら、いつも一部屋の中だけで住むようなものだ。他の部屋に入るには鍵がいる。その鍵とは世界のいろんな言葉のことなのだ。」という言葉がある。名言だ。あの語学学校ベルリッツの創設者、Maximilian Berlitz(マクシミリアン・ベルリッツ)の言葉である。

世界には様々な言葉がある。当たり前だが、言語ごとに、モノ・色・感情・天気・動植物・食べ物の呼び名が違う。加えて、周辺世界の「区別」「切り取り方」も変わる。

具体的にいうと、たとえば、英語では「rabbit」「hare」「cony」を区別するが、日本語では日常的に「うさぎ」として区別しない。英語では「cow」「bull」「steer」「calf」「cattle」を区別するが、日本語で日常的には「牛」だ。

一方、日本語では「蝶」と「蛾」を区別するが、フランス語では日常的に「papillon」として区別しない。「犬」と「狸」もフランス語では同じ「chien」だ。日本語では「ブリ」「スズキ」「ボラ」それぞれに成長過程別の呼称を持っているが、英語では「big」「small」で表現するしか手はない。もちろん上記それぞれに別の呼称や学術用語等はあるものの、日常的には区別しない。

エスキモー*の言葉で「雪」をあらわす言葉は50種類以上あると言われている。私も雪国福井の出身なので「粉雪」「牡丹雪」「ざら目雪」「おしょりん(雪が固くなった状態)」など「雪」を区別する言葉を持っているが、エスキモーには「○○雪」といった派生語ではない別の言葉(語幹)だけでも20種類以上ある。そして、雪の降らない南国の人にとってはこんな区別はあまり意味をなさない。

このように、言語によって、見ている「世界」が違う。「区別」が違う。「切り取り方」が違う。つまり、「世界」をどう見ているか、が違うということ。それぞれの言語ごとに、日常的に重要で身近なものについては極めて豊かな「世界」がある、ということだ。

したがって、言語を翻訳する時、単に1単語1単語を置き換えていけば済む話ではない。言語ごとに特有の豊かな「世界」があるということに思いを馳せて翻訳するべきなのだ。言語ごとに百花繚乱の「世界」が存在する。そこに思いが至ると、改めて世界の豊かさ・多様さに感動するはずだ。

では、一体、世界に言語はいくつあるとお思いだろうか?


* エスキモーという言葉はカナダでは差別用語とされるが、シベリア、アラスカでは公的な用語であり、よく代替として使われる「イヌイット」は北方先住民族全体の一部を指すので、ここではエスキモーを使用する。
 
 

WIPジャパン株式会社
代表取締役会長 上田輝彦(うえだ てるひこ)

福井・兼業農家出身。中・高では卓球選手。数学・世界史・世界地理を愛好。上智大学(法学部)在学中、欧州各国や中国等を跋渉、その後、住友銀行(大阪)、英国ケンブリッジ大学大学院留学(歴史学部)を経てWIP創業。オリンピック関連調査を端緒として、多言語および海外市場を対象にした事業のみに特化し現在に至る。「グローバルビジネスほど面白いものはない」が信条。

一般社団法人クールジャパン協議会 専務理事

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