第8回
切り餅をめぐる熱き戦い(2)
知財テーマ:特許法
内容のポイント:①特許訴訟、②特許侵害だと訴えられたら、③特許があれば安心か?
前々回に「切り餅をめぐる熱き戦い」として、越後製菓さんとサトウ食品工業さんの間の特許侵害訴訟を取り上げました。3月22日に、この件についての知財高裁の終局判決が出ました。そこで、この事件をもう一度取り上げて、特許権侵害について考えてみたいと思います。
■特許訴訟&本件のこれまでの流れ
まず、前々回で取り上げた昨年9月の知財高裁中間判決のおさらいをしましょう。
これは、サトウ食品工業(以下、サトウ食品)の「サトウの切り餅、パリッとスリット」等が越後製菓の特許を侵害しているとして、越後製菓(原告)が、サトウ食品(被告)を訴えたものです。
越後製菓の特許権の切り餅はこんな感じ(特許第4111382号公報から)。
ざっくり言うと、側周面に、ぐるりと、または、対向するかたちで切り込みまたは溝を入れるという内容の特許です。実際は、ざっくり言えないところが争いになっているわけですが・・・(前々回のコラム参照)。
サトウ食品の「サトウの切り餅、パリッとスリット」の方はこんな感じ(同製品のパッケージの説明図:なお、現在はこの商品は販売されていません)。

第1審(平成10年11月)では、原告敗訴でした。つまり、特許侵害ではない、という判断でした。これに対し、昨年9月の知財高裁中間判決では、一転して特許侵害という判断になったのです。
ところで、昨年、判決が出ているのに、また、今回、判決があったのって何? と思われる方もいるかもしれません。
実は、特許訴訟で、裁判所は、
①まず、特許侵害があるのかどうか(これを「侵害論」といいます)を判断します。そして、侵害があったと判断した場合に
②損害額の算定等を行います(これを「損害論」)といいます。
侵害論⇒損害論という2段階で裁判が進行するわけです。侵害がなければ、損害賠償もないわけですから、合理的なやり方ですね。
①の侵害論については通常、中間判決で裁判所の判断が下されます。これが、昨年9月の判決で、今年3月22日の判決は②の損害論を含む終局判決です。
結論として、終局判決では
・サトウ食品に製造差し止めと切り込みを入れる製造装置の廃棄
・約8億円の損害賠償の支払い
等を命じました。
因みに越後製菓が請求していた金額は59億4000万円でした。また、争点となっている切り込みを入れる技術を使うサトウ食品製品の年間売上高は大体50億円程度のようです。もちろん、売上げのすべてが切り込みを入れる特許によって生じたものと認定されたわけではありませんが、それなりの寄与があったと判断されたようです。
■特許侵害だと訴えられたら
さて、ちょっと想像してみてください。
貴方の会社に、特許侵害だと警告状が届いたらどうするべきでしょう。
まず、必要なのは、相手が本当に特許を持っているのかどうか調べることです。警告状に何らかの根拠となる書類が添付されている場合もありますが、ここは、自ら調べるべきです。
特許庁の電子図書館で特許公報を見ることはできますが、これは公報発行時の権利関係しか掲載されていません。きちんと調べるのには特許原簿を調べる必要があります。実は不動産の登記簿のように特許の登録簿があるのです。これは特許庁で閲覧できます。
特許が発行されているか? 存続期間は満了していないか? 特許権者の変更はないか? 特許維持料は納付されているか? 特許は無効になっていないか?
等を確認しましょう。
自社製品が、現に存在している特許権を侵害しているのかも確認する必要があります。これが、ある意味、肝心でもあり、いちばん重要でもあります。但し、この素人判断は危険です。専門家である弁理士に依頼されることをお勧めします。
さて、以上の結果に応じて、何らかの応答なり交渉をしても残念ながら、訴えられてしまいました。
以下は、(用語的にも内容的にも)かなりざっくりした話ですが、
訴訟段階での対抗手段としては、いくつかの方法があります。自社製品は特許権の範囲内のものではない、仮に侵害だとしても原告の損害額はわずかである等と反論するのはもちろんですが、
・特許は無効である
・自社製品は特許出願前から製造等されていた
という抗弁もよく使われます。
一般論で言えば、被告としては、
この程度のことはうちでは前からやっていましたよ、とか、こういう文献に載っていますよ、とか、そんなことは業者なら簡単に思いつきますよ、
等と言うわけです。
実際、越後製菓の特許が平成年14年10月出願だったのに対し、サトウ食品は、その時期には切り込みを入れた商品の販売を開始していたと抗弁したのですが、これは今回の裁判では認められませんでした。
■特許があれば安心か?
さて、サトウ食品も、実は切り餅に関して特許を持っています。これがその図です。

(特許第3620045号図1)
これは平成16年11月26日に登録になったものです。アレっと思いませんか?
先に挙げた「サトウの切り餅、パリッとスリット」とほぼ同じです。しかも、この特許、今回の越後製菓の特許第4111382号(登録日:平成20年4月18日)よりずっと前に登録されているのです。
実は、サトウ食品は、自社特許の範囲内の製品を販売していたわけです。しかも、その登録時点では、越後製菓の問題の特許は登録されていませんでした。
時系列で言うと、こういうことです。
平成14年10月31日 越後製菓 出願
平成15年7月17日 サトウ食品 出願
平成16年11月26日 サトウ食品 特許登録
平成20年4月18日 越後製菓 特許登録
サトウ食品は、自社の特許の範囲内の製品を販売していたのですが、それは、その特許出願より前に出願された越後製菓の特許の範囲内だった(と認定された)わけです。
つまり、自社の特許発明の実施だからといって100%安心ではありません。
自社特許権の内容を実施したら、それが、他社の特許権の内容を実施したことになる、というケースは珍しくありません。この場合、自分が特許を持っているからOKではないのです。基本的には、他社の先願特許の実施であれば、その他社特許の登録日以後は特許権侵害になってしまいます。
8億円というのは、少なくない金額です。実際にはさらに裁判費用も掛かります。もし、サトウ食品があと10ヶ月早く出願していれば、8億円は支払わずに済みました。逆に越後製菓は、すばやく出願したことにより、大きなアドバンテージを得ました(もちろん、今後の上告審で状況が変わることもあり得ますが・・・)。
以上の結論+αです:
・貴方の会社が何か発明をしたら、ぜひ、専門家に相談してください。
・資金が許すなら、何らかのかたちで出願されることをお勧めします。
・侵害だと警告されても冷静に対応し、専門家に相談してください。
・もし、その相談先が弊所であれば私は大変、嬉しいです。
記事一覧
プロフィール

Win国際特許事務所
所長 小澤 信彦
1958年東京都生まれ。東京大学理学部化学科卒、筑波大学大学院修了。1986年から特許事務所において日本及び外国の化学・製薬企業、健康食品メーカー、ステンレス鋼メーカー、製紙メーカー、電子部品メーカー、大学・研究機関等の特許出願・商標出願等を担当。2007年、従来の特許事務所のコストが高いことに疑問を感じ、WIN国際特許事務所を開業。主として中小企業、大学、個人企業等の国内出願・外国出願のお手伝いを廉価で受けたまわっています。行政書士事務所も併設しており、起業手続きのお手伝いも。早稲田大学大学院(博士後期)在籍中、2009~2010年度工業所有権審議会弁理士試験委員、第1級陸上無線技術士、電気通信主任技術者(データ通信)ですので知的財産法、化学、電気、ITの専門知識もありますが、個人の方の発明でも日用品の発明でも丁寧に対応しますのでお気軽にご相談ください。商標・著作権のご相談もどうぞ。ご相談は無料です。



























