製造業者が知るべきテクニカルマーケティングのツボ

第9回

マーケティングの動線

後藤 亘 2018年5月1日
 

皆さん、動線という言葉を聞いたことがあると思います。一般的な例では、製造業における工場内の作業動線が思い浮かぶでしょう。
人がなにか作業をするときに、無駄がなく、わかり易く、交差することなく安全に次の作業や行動に移るときの経路のことですね。


意外に知られていない事ですが、実はマーケティングにも動線があります。えっ?と思われるかもしれませんが、少し考えてみてください。


例えば、製造工場内で動線がきちんと考慮されていないとしましょう。
するとどうなるか。


原料や部材を運んで機械にセットする際には、倉庫の奥のほうから台車を使って運び出しますね。途中には数段の段差を越えなければならないかもしれません。
はじめの機械Aで加工が終わった半製品を機械Bにセットするときに、別の工程の作業者の背後を通らなければならないことも。
ちょっと考えただけで、事故や遅延が起きそうな環境ですね。経営者であれば「うちではそんな間抜けなことにはなっていないし、ちゃんと動線を意識しているよ」とすぐに言われるでしょう。


ところが工場の中の動線設計がしっかりできているのに、残念ながらその工場の生産物を売ることに対して、動線設計がされていないケースが多く見受けられると感じています。


私は外資系の電子部品業界の中で30年間様々な企業を見てきました。
その中で、この物を売る際の動線、これはマーケティング活動そのものですが、この動線がきちんと設計されていないがために、製品カタログの内容がちぐはぐだったり、提案資料の説明が的を得ていなかったり。
あるいはイベントや展示会において、誰も立ち寄らないブースで社員同士がおしゃべりするだけ、などの場面を多く見てきました。
皆さん、どうしてそんな状況・結果になったのか、よくわかっていません。それはそうです。そもそもこのマーケティングの動線を意識していませんから。


では、マーケティングの動線というのは、どういうものでしょうか?
これは、大きく分けて3つのステップに分けて考えます。それぞれのステップに具体的なゴールがありますから、効果を測定することもできます。

一つ目は、認知のステップです。

これは、自社の技術や製品について、文字通り認知を広げるステップです。
「うちにはこんな技術があります。こんな製品があります。○○と言えば、弊社です。」

と、業界や世間に発信します。広告やプレスリリース、雑誌などを使って、1人でも多く、1社でも多くの目に触れることが大切です。
理由は、このステップのゴールにあります。
このステップのゴールは、1社でも多くの潜在顧客(見込み客)を捕まえることだからです。ですから、ここで発信するメッセージは、このゴールを意識したメッセージとレベルにしなければなりません。

二つ目は、教育のステップです。

ここでは、当たりをつけた潜在顧客に対して、自社技術の特徴やメリット、使うことで得られる価値をメッセージとして発信します。
このステップのゴールは、当たりをつけた潜在顧客(見込み客)のうち、何社があなたの会社が持つ技術や製品の価値を理解して、自社の製品に利用してみようかと考えるか、です。

ここがうまくいけば、この潜在顧客の中に新しい用途開発のイメージがわき始めることにつながります。
ですので、このステップが一番時間的にも長く、重要なステップです。

三つ目は、採用トリガーです。

例えば、サンプルを提供したり、製造工程を見てもらったり、品質、キャパシティ、アフターサービスの説明など、最終的に決定の判断を下すための最後のひと押しと考えてください。
場合によっては、技術者同士のやり取りもあるでしょう。試作や評価を何度か繰り返すこともあるでしょう。もちろんゴールは技術や製品の採用です。
そして、ここまでがマーケティングの役割です。潜在顧客が採用を決定したら、請求書をもってクロージングするのが営業の役割です。


以上が、マーケティングの動線です。
細かい実務レベルに落とし込めば、さらに細かい注意事項はありますが、社長としてはこういうステップでマーケティング業務を進めていくということを、まずは理解してください。


これがわかると、「この顧客に対しては、今はこの段階だからこういうメッセージを送らなければ」とか「この展示会はこういう来場者だから、あれを見せよう」とか、日々のゴールが見えてきます。


ゴールが見えれば、そのための仕組みづくりと社員への支持もクリアになります。


ぜひ、マーケティングの動線を意識して、技術の利用用途を広げる活動を進めてくださいね。

 
 

プロフィール

株式会社ルーセントコンサルティング
代表取締役 後藤 亘

大学卒業後30年間、主に通信、半導体業界における外資系企業でキャリアを積む。

エンジニア時代には、携帯端末向けやガスメーター向けなど数多くの半導体設計に携わる。その後、そのような電子部品をセットメーカーに対して拡販するマーケティングに異動。そこでは、技術とアプリケーション(使用用途)の両方を熟知した顧客提案が功を奏し、多くの分野で新規案件を獲得してきた。

また、40歳を前に大学院に入学、技術の商業化やマーケティングを学術的に身につけてMBAを取得。その理論的裏付けと専門技術的な知識を、その後の数社の外資系企業でのマーケティング活動に活かした、技術マーケティングのプロ。

現在は、前職で培った経験と実績をベースに、国内の中小製造業が持つ独自技術の「見せ方」を工夫して用途開発を加速させることを目的とした「用途開発誘起戦略」を提唱し、これを実践するための仕組みづくりを体系化して、製造業経営者の方にコンサルティングを行っている。

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