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マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第6回

上級マネジャーの役割(現場マネジャーのマネジメント)<前編>

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「上級マネジャーについて、戦略に関わる2つの役割は理解できました。次は現場マネジャーのマネジメントですね。」

「以前に中川部長が『当たり前すぎないか?』と感想を漏らした役割だな。」

「5年以上も前のことなのに、まだ覚えているのですか?こういうの、地獄耳ならぬ地獄記憶とでも言うのでしょうか?」

「いやいや、なんでも覚えている訳ではないよ。印象に残ったところだけだ。例えば中川部長だって、自分のお子さんが初めて『お父さん』と言った時のこと、覚えているだろう?」

「いや、それも危なかしいです。それにしてもひどいですね。私のことを、私の子供の、それも赤ちゃんの時のできごとに例えるなんて。」

「いやいや。だって可愛いじゃないか。知らぬからこそ、マネジメントの基本中の基本を『当たり前すぎる』なんて言うのだからな。」

「それは言いっこなしですよ。」

「ところで現場マネジャーのマネジメント。具体的にはどうすることだった。」

「ええっと、少し待ってくださいよ。ノートを見てみますから。」

「中川部長は今、部長なんだろう。部下のマネジメントでいつも気にしていたら、ノートなんて見る必要はないはずではないのか。」

「そうなんですけどね。これで万が一間違えたら、万が一の時には葬式の弔辞で『彼はマネジメントの基本中の基本を間違えた』と言われそうで、それがイヤで確認しているのですよ。」

「それは正しい判断だな。」


上級マネジャーによる4つのマネジメント

「あった、あった、ありました。」

「あったか?上級マネジャーによる現場マネジャーへのマネジメント。主な方法には何があった?」

『主に4つの方法で行うことになるんでしたね。」

「何だった?」

「『現場目標・現場戦略の策定・伝達』と『結果のフィードバック』、『モチベーションアップ』そして『配置・育成』です。」

「ご名答。」


現場目標・現場戦略の策定・伝達

「『現場目標や現場戦略』、大切な役割でしたね。」

「そうなんだ。経営トップが掲げた全社目標を達成する原動力と言える。」

「全社目標とは、企業として売上を10%伸ばしたいとか、利益を20%アップさせたいとかの目標ですね。」

「ただし、この目標を現場マネジャーを通して現場まで、例えばセールスパーソンにそのまま伝えれば実現できるという訳ではない。」

「現場マネジャーが、もし『我が社では全体として売上を10%伸ばす、利益を20%アップさせることに決定した。これを実現できるよう、皆も頑張って欲しい』と言ったとしても、それは行動には繋がらないでしょうからね。」

「では、行動に繋げるためには、何が必要なんだ?」

「まずは全社目標を部門目標にブレークダウンすることが必要ですね。『わが部門では新規取引先100社開拓』などと現場目標を打ち出す訳です。」

「そしてこれは、目標実現のための経路を定めたという意味でもある。売上や利益の拡大は、既存取引先への売上拡大によるのではなく、取引先数の拡大により達成しようと決めた訳だ。」

「そうやって現場戦略の基本方針を打ち出し、では新規取引先のターゲットとしてどんな企業を狙うのか、どうやってアプローチするのかなどの詳細戦略も定めていく訳ですね。」

「そういうことだ。」


現場目標の策定・伝達

「こうやって『わが部門では新規取引先100社開拓』と目標を定めたとする。次は、現場へのマネジメントだ。どうやって行う。」

「最初は、現場マネジャーに、新規取引先100社を割り振っていくのでしょうね。5人の現場マネジャー、つまりは自分が統括する部署が5つあればということですが、例えば20社ずつと、割り振っていく訳です。」

「そうなんだ。例が例だから簡単に聞こえるが『部下である現場マネジャーが各々の目標を達成すれば、上級マネジャーである自分が実現しなければならない目標も達成できるようにする』という構図を完成させるのはとても大切なことだ。結構、これができていない場合が多い。」

「さっきは5つの部署に均等に新規開拓先20社を割り振ると言いましたが、自分の統括エリアに需要の大きな地域と小さな地域があるとすれば、大きな地域には25社、小さな地域には15社というように割り振って、トータルとして100社を実現できるようにする訳ですね。」

「そうだ。そうやって、わが部門として売上目標や利益目標もきちんと達成できるように、新規開拓しようとする取引先の規模や取引量なども決めていく。」

「これが現場目標を定め、伝達することなのですね。」


現場戦略の策定・伝達

「現場目標の策定・伝達の次は、現場戦略の策定・伝達だ。」

「これも大切な役割でしたね。」

「そうなんだ。そして俺は、このあたりが当社のマネジメントとして弱いところじゃないかと思っている。」

「なるほど。」

「例えば、ある現場部署に、新規開拓目標20社という目標を割り振る。新規開拓すべき新規先の規模や取引量なども条件付けていく。この辺までは皆、やっているだろうと思う。」

「やっていると思います。」

「しかし、それで現場マネジャーが行動し、形の上では目標を達成した場合、それが真に自部門の成果になる、ひいては自社の成果に繋がるとの保証はあるのだろうか?」

「ダメなのですか?」

「例えば新規取引先を20社開拓できたとする。でもそのせいで、これまでの取引先との関係が疎遠になったらどうする?新規取引先に集中しすぎて、従来の取引先との良好な関係を保てなくなってしまうような場合だ。」

「それはマズイですね。どうしたら良いのでしょう?」

「そこで、そういう事態を避けるような戦略を立てて、こちらも現場に伝達していく必要が出てくる訳だ。」


現場戦略の活用

「現場戦略ですか。例えば、どうすれば良いのでしょう?」

「例えば俺は昔・・・。」

「良い実例があるのですね。」

「さっき言ったような弊害、昔に実際にそのようなことがあったんだ。目標は達成できそうだと喜ぶのも束の間、足元を見ると既存顧客への売上が減少しているんだ。その時は、焦ったな。だから次の時にはかなり慎重になったんだ。」

「目標だけでなく、戦略まで考える必要を感じた訳ですね。」

「そうなんだ。最初に、かなり綿密なリサーチをした。」

「ほう。」

「新規顧客候補を選ぶ場合に、既存取引先とシナジーが生まれそうな候補をピックアップすることにしたんだ。」

「なるほど。」

「仮説が正しいか、取引先の担当役員にも話しを聞くことまでしたよ。」

「はい。」

「それで我が意を強くして、新規開拓ターゲットには、既存顧客との相乗効果が高いと思われる先を優先してピックアップすることにした。」

「最初、営業部隊からは『制約を付けられたから仕事がやりにくくなった』とブーイングがあがったけどな。でも期末には、取引先数目標は達成できても売上目標や利益目標が達成できないという事態にならずに済み、どころか思った以上に良い成績を得られることになって、納得したようだ。」

「確かに。新規顧客を開拓すれば、既存顧客への売上も上がるのですからね。」

「そういう、転ばぬ先の杖を戦略として用意しておくことも上級マネジャーの役割なんだ。」

「なるほど、わかりました。」
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

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