イノベーションズアイ BtoBビジネスメディア

マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第40回

双方向のフィードバック

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「ここまで、縦系列と横系列の二つのフィードバックについて教えていただきました。」

「そうだな。最後に、これらフィードバックとは別の観点で重要なポイントを説明しよう。」

「何ですか?それは。」


双方向のフィードバック

「フィードバックは、実は同時に2方向で行わなければならないということだ。双方向のフィードバックがきちんとなされるように取り計らうことが、マネジャーに求められているということだ。」

「どういうことですか?理解できません。」

「マネジメントで行うべきフィードバックとして、必ずコミュニケーションについてのフィードバックを含めなければならないからだ。」

「どんどん訳が分からなくなっていっています。」


マネジメントはコミュニケーション

「では、順を追って話すので考えてみてくれ。俺は、マネジメントの根幹の一つとしてコミュニケーションがあると思う。中川部長は、どう思う?」

「うーん。マネジメントがコミュニケーションだけで成り立っているかのような主張があり、それには『?』と思います。一方で、コミュニケーションがマネジメントに必要だと言われるなら、そうだと思います。まあ、根幹部分というより、付随的な要素ではありますけどね。」

「そうかな。では、マネジメントの根幹部分とは何なんだ?」

「急に、重要な根幹部分を全部言えといわれると無理ですが、幾つかなら言えます。例えば、トップからの指示や顧客からの要望などの情報を部下に正しく伝えて実行させることがあるでしょう。オーダーをもとに、ミスリードしないようにマネジメントする訳です。」

「そうだな。今の言い方には『優先順位を間違えない』とか、『協議すべき先をきちんと指示する』なんかが含まれると考えて良いのか?」

「おっしゃる通りです。」

「俺も、情報を正しく伝えること、大切だと思うよ。ただ、それから成果を得る上でコミュニケーションが鍵となるのだ。」

「その言い方は、情報を正しく伝えるというマネジメントを行なったとしても、コミュニケーションができてなければ無意味だと言われているように受け止められますが。」

「そうだよ。」

「どうしてですか?情報を正しく伝えていれば、それなりに成果があるでしょう。もし例えコミュニケーションがうまくいかなくとも。」

「本当にそうかな。」


伝わらなければ意味がない

「先ほど、マネジメントの根幹部分として情報を正確に伝えることがあると言い、優先順位を例に挙げてくれたな。」

「はい。例えば製造現場に『明日の予定だったB仕事に、すぐに取り掛かり、本日中に終わらせて欲しい』という依頼が営業部署からあったとします。でも、今から始めようとするA仕事は、実はもっと重要度の高い仕事だということを、マネジャーは知っています。この場合、マネジャーは、依頼にも関わらずA仕事を優先するように伝えなければなりません。」

「例えば『そうはいうがA仕事も大切だぞ。どっちの優先順位が高いと思うんだ?』と言うわけだな。」

「そうです。」

「それで終業時にA仕事ではなくB仕事が終わっていたとする。どうする?」

「それは困りますね。責任者を追及することになります。」


誰が責任者か?

「そうか、『責任者を追及する』ね。それって、誰だ?」

「それは現場の責任者に決まっているではないですか?」

「そうかな。俺には中川部長が責任者だと思われるぞ?」

「えっ?!」

「現場責任者から『中川部長からA仕事も大切だ。どっちの優先順位が高いと思うのか?と言われたので検討した。熟慮の末、B仕事の方が優先順位の方が高いと判断した。何か問題があったのか』と言われたら、どうする?」

「うっ。でも、私はA仕事の方が大切だと思ったからこそ、あのような言い方をしたのです。」

「それを聞いた現場責任者から『もしそうだったらA仕事を優先するようにはっきり言ってくれ』と、言われてしまうぞ。たぶん。」

「うーん。私としては、頭ごなしに命じると部下が考えなくなってしまうので、自分で正しい答えを出せるように促したつもりなのですが。」

「たぶん、そうだろうな。中川部長の気持ちは、理解できる。」


マネジャーのフィードバック

「これから、どんな教訓が得られる?」

「口頭による指示は誤解を招きやすいということですね。改善しなければなりません。」

「例えばどうする?」

「メモに書いて渡します。」

「それでも、先の例で言えばB仕事を優先されるような事態が生じたらどうする。『そうはいうがA仕事も大切だぞ。どっちの優先順位が高いと思うんだ?』を口で言う代わりにメモで書いても、誤解は避けられないと思うがな?」

「そうですね。言葉を変えなければなりません。しかし、頭ごなしだと当事者意識がなくなってしまいますし。」

「自分で考えたら、実行に移す前に報告するよう求めたらどうだ。」

「あ、それは良いですね。そうしたら、誤解は随分と減るでしょう。」


受け手のフィードバック

「そしてもう一人、フィードバックして欲しい人がいる。」

「指示の受け手ですね。」

「そうだ。自分の判断でB仕事を優先したが、本当はA仕事を優先すべきだったことが分かったときに、どんなフィードバックをして欲しい?」

「そうならないきっかけがあったことに気がついて欲しいですね。普段は指示を出すことのない上司が口を出したのですから、例え『そうはいうがA仕事も大切だぞ。どっちの優先順位が高いと思うんだ?』なんて持って回った表現でも、重大な判断誤りを回避したいという気持ちの現れだと気付いて欲しいと思います。」

「確かに、そういうフィードバックをして欲しいな。」


双方向のフィードバックを行う

「ここで2つのフィードバックがあったことに気が付いたか?」

「はい、一つのコミュニケーションについて、情報の発信元である私がフィードバックすることと、受け手である部下がフィードバックすることですね。」

「この2つのフィードバックを常に回していると、コミュニケーションの質が飛躍的に高まるだろう。」

「そうですね。それに、マネジメントをしっかり行おうとするなら、コミュニケーションが大切だということも分かりました。」


双方向のフィードバックをマネジャーが促す

「さて、部下が行うフィードバックだが、全ての部下がきちんとしてくれるものなのだろうか?」

「いいえ、それは期待薄ですね。」

「ではどうすれば良い?」

「マネジャーが促すしかなさそうですね。」

「そうなんだ。では、どうやって?」

「言うは易し、実行するは難しですね。」

「そうだな。でも、俺としては気にかけていたことがあったぞ。」

「そうなんです。三上取締役が昔、何をしておられたかを思い出したらヒントになるかと思ったのですが、思いつきませんでした。」

「そうか。自分ではかなり気にして行なっていたのだが、意識してもらえてなかったとは残念だな。」

「申し訳ありません。」

「俺たちは、以前に部長・課長の関係だった時、何をしていた?」

「週に3回はミーティングをしていましたね。」

「そうだろう。その意図は?」

「そうか、そうだったのですね。それはコミュニケーションを密にし、部長が現場のことをしっかりと把握するためのものだと思っていました。」

「もちろん、その意図はあったさ。しかし、それだけじゃない。」

「私にフィードバックを促していたわけですね。」

「そうだ。」

「確かに、あのおかげで私は部長の言葉の意味を深く考えるようになったと思います。」

「以前に行った会話、つまり部長である私が命令し、それを中川課長が受け止めて実現した成果について振り返り、私の意図がしっかりと実現したかを再チェックするわけだからな。そうなるだろう。」

「あのおかげで、私は、『部長のさっきの言葉は、自分に何を求めているのだろう』と考えるようになりました。」

「そうなんだ。マネジメントはコミュニケーションだ。情報の発信者がおり、受け手がいる。両者の思いや意図が共有されていないと、うまくマネジメントはできない。」

「だから双方向のフィードバックが必要なのですね。」

「そうだ。そして、それをマネジャーがリードする必要もある。」

「分かりました。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

同じカテゴリのコラム

イノベーションズアイに掲載しませんか?

  • ビジネスパーソンが集まるSEO効果の高いメディアへの掲載
  • 商品・サービスが掲載できるbizDBでビジネスマッチング
  • 低価格で利用できるプレスリリース
  • 経済ジャーナリストによるインタビュー取材
  • 専門知識、ビジネス経験・考え方などのコラムを執筆

詳しくはこちら

お役立ちコンテンツ

  • 弁理士の著作権情報室

    弁理士の著作権情報室

    著作権など知的財産権の専門家である弁理士が、ビジネスや生活に役立つ、様々な著作権に関する情報をお伝えします。

  • 産学連携情報

    産学連携情報

    企業と大学の連携を推進する支援機関:一般社団法人産学連携推進協会が、産学連携に関する情報をお伝えします。

  • コンサルタント経営ノウハウ

    コンサルタント経営ノウハウ

    コーチ・コンサルタント起業して成功するノウハウのほか、テクニック、マインド、ナレッジなどを、3~5分間程度のTikTok動画でまとめています。

  • 補助金活用Q&A

    補助金活用Q&A

    ものづくり補助金、事業再構築補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金及び事業承継・引継ぎ補助金に関する内容を前提として回答しています。

  • M&Aに関するQ&A

    M&Aに関するQ&A

    M&Aを専門とする株式会社M&Aコンサルティング(イノベーションズアイ支援機関)が、M&Aについての基本的な内容をQ&A形式でお答えします。

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。