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マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第33回

指標を選び目標を設定する

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「財務的成果マネジメントを行う場合、出発点になるのは、何でしょうか?」

「KPIを選び、目標値を設定することだろうな。」

「KPIすなわち ”Key Performance Index”ですね。」

「そうだ。現場が行なっている付加価値生産活動やその他の活動を示す指標のうち、重要だと思われる指標を選ぶことだ。」

「なるほど。『数値目標とノルマ』という欧米流のマネジメントからすると、まさに王道な考え方ですね。」

「うーん、そのような考え方もできなくはないが、私はもう少し別の側面に着目している。」

「何ですか?」

「それは社内の公用語、すなわち経営陣もマネジャーも現場で働く人も、同じ指標を見て達成を目指す対象になるという意味だ。」

「確かに、そのような側面はあるのでしょうね。」


利益が公用語になりにくい理由

「でも、もしそうなら、会社が持続的に活動し、成功していくにおいて本質的なのは利益なのではありませんか?つまり経常利益に注視していれば問題はないのではないでしょうか?」

「そういう意見、あるだろうな。私もそういう話を聞いたことがある。ただ、俺はその考え方ではうまく会社をリードしていくことは難しいと思っている。」

「経常利益に注目していたのでは、うまく会社をリードしていくことは難しいですって。それは何故ですか?」

「会社は、経常利益の極大化を目指していてはいけない場合もあるからだよ。」

「何ですって?それはどんな時ですか?」


戦略対応に必要なこと

「例えば、戦略に対応しようとする場合だよ。」

「戦略に対応しようとする場合ですって?どうしてですか?」

「例えとして、当社が高級化路線を目指した時のことを思い出してみよう。あの時、何が起きた。」

「何が起きたかですって?いろいろ起きましたよ。大混乱が起きました。」

「相変わらずだな中川部長は。中川部長の話を聞いていると、どこに興味があるのか、てきめんに分かる。あの時は『大混乱』が中川部長の関心事だった訳だな。しかしそれって、マネジャーにとってはあまり感心できる姿勢とは言えないのではないかな。」

「そんな。私はあの大混乱を、どうにかして収束させたかったんです。」

「で、どのように収束しようとしたんだ?」

「それが分かっていれば、問題はありません。」

「やっぱりな。騒ぎに乗じて、騒いでいただけなんだろう。」

「今日は超辛口ですね。そろそろ答えを教えて下さい。」

「中川部長のいう大混乱を抑える方法が、KPIなんだよ。それをうまく設定しなかったことが、大混乱を招いてしまった原因なんだ。」

「何ですって?」


大混乱の原因

「では聞こう。あの、高級化路線を目指していた時、何故、大混乱に陥ってしまったんだ?普及品路線を強力に推していた勢力があって、それと議論でもしていたのかね。」

「いえ、そうではありません。普及品から高級品に主力製品を移していかなければいかないことは、社内でコンセンサスがありました。」

「では、どういう混乱だったのかな?」

「私が一番印象に残っているのは、生産個数の減少についてでしたね。普及品から高級品に移行する際、生産個数が減るのは予め見込まれていました。しかし、見込んだ以上の落ち込みがあり、合わせて品質低下の問題も発生したので、経営陣から生産部門がひどく叱咤されたのです。」

「その叱咤は、不当だったのかな。正当だったのかな?」

「私の感覚では、不当とまでは言いませんが、現場の実情を踏まえていなかったと感じています。品質課題に対応するための準備ができていませんでしたから。」

「なぜ、現場は品質課題に対応できなかったのだろう?」

「うーん。何故でしょう?」

「私が見聞きした中では、品質課題が適切な指標値として提示されていなかったからではないかと思っている。」

「うーん。そう言われたらそうですね。『これで大丈夫と太鼓判を押して検査済とした製品を、後になって「ここに目に見えない窪みがある」とか「ここにうっすらと曇りがある」と言って不合格にされるのは、とても堪えた』という感想を聞いた記憶があります。」

「そうだろう。」


KPIを適切に設定するメリット

「では、あの場合、どうすれば良かったのでしょうか?」

「適切なKPIが、生産目標についても品質についても適切に選択し、目標値が提示されていたら、現場はあれほど混乱しなかったと思うよ。」

「例えば『品質の代用特性や許容される誤差』などですね。」

「そうだ。それにプラスして『許容される不良率』なども提示されていたら、現場は最初からそれを目指していただろう。」

「あ、思い出しました。最初に、その議論があったのでしたね。」

「そうなんだ。新しい試みなので現場の自由裁量に任せようという考え方と、達成すべき品質レベルや不良率、ラウンチの時期などを目標として提示しておいた方が良いという考え方とが拮抗していたんだ。」

「それで結局、製品の実現化に集中する代わりに現場に自由に動けるようにしようということになったのですね。」

「そうなんだ。もともと俺は、目標値を提示するようにという考え方だった。しかし、社長が自由にさせようと決断すると仕方ないよな。」

「取締役らしくないですね。」

「そうなんだ。新製品の試作品ができたら、量産化段階ではしっかりとKPIと目標値を提示できるようにしようと考えていた。でも、それは難しかったな。タイミングを逸してしまった。」

「そうですね。試作段階から量産化段階へのフェイズの切り替えについて、全社的に認識が甘かったと思います。だから、いざラウンチが見えてきた時に混乱してしまったのでしょう。」

「そうだな。だからこの問題は、一つはプロジェクト・マネジメントの進め方に関する教訓だと思う。でも内奥には、マネジメント・コントロールに関する教訓も含んでいる。」


戦略対応に道しるべとなるKPI

「こうやってみると、何が原因なのか中川部長にも分かっただろう。」

「分かったような気がします。高級化路線というプロジェクトについて、きちんとフェイズを分け、各々の段階で目指すべきKPIを示さなかったことですね。」

「そうなんだ。そうしなかったから、いつの間にか『利益』が台頭してきた。その頃はまだ、利益を目指してはプロジェクトが混乱するだけだというタイミングで。」

「なるほど。適切なKPIを提示しなかったので、経営陣は『利益』を持ち出してしまった。そのため現場は、プロジェクトの完遂を目指すことができなくなったという意味ですね。」

「そうなんだ。適切なKPIと目標値を提示しなければ、現場も何を目指せば良いのか分からなくなってしまうし、マネジャーも拠り所を失ってマネジメントできなくなる。何を、どのような方向性にマネジメントすれば良いのか、明確に見定められなくなってしまうんだ。」

「KPIの選択が重要だという意味、分かりました。」
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

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