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マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第28回

マネジメント体制再整備の必要性

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「上級マネジャーの役割について、今まで『現場マネジャーへのマネジメント』を教えて頂きました。今日は、新しい単元に入るとのことですね。」

「新しい単元だなんて、学校みたいだな。そんなつもりで話している訳ではないのだが。」

「いえいえ、私はそういう気持ちでお聞きしていますよ。」

「そうか、では、心して聞いてもらおう。今回から上級マネジャーのもう一つの役割、『マネジメント体制の再構築』について話そうと思う。」

「お願いします。」

「以前に『マネジメント体制の再構築』とは『マネジメントをコントロールするためにシステムをも見直すこと』だと教えてもらいました。その内容として、情報システム、決裁権者、そして組織構造を見直すことだとも。」

「そうだったな。よく、メモしているではないか。」

「それはそうですよ。忘れていたら、取締役に何と言われるか分かりませんからね。」

「それは仕方ないよ。俺は学校の先生らしいからな。」

「揚げ足を取られましたね。」

「それはさておいて。今回は、先ほどの情報システム、決裁権者、そして組織構造の見直しについてご説明頂けると思うのですが、その前に、ご説明頂ければと思うことがあるのです。」

「何だ?」

「うまくマネジメントできるようにするために、なぜ情報システム、決裁権者、そして組織構造を見直すことが必要かということです。」

「そうか、わかったよ。」


組織は何のためにあるか

「では、考えてもらおう。組織は何のためにあるんだ?」

「一人の人ではなし得ないような、大きな仕事をし、成果を出すためですね。」

「そうだ。但し、それは単純ではない。」

「と言われますと?」

「大きな仕事をするといった場合、2種類の方向性がある。例えば100kgの機械を運び出すような場合だ。」

「みんなで『せいの!』で力を合わせるのですね。」

「もう一方は、機械の設計、製造、販売、運搬、据付を行うような場合だ。」

「分業ですね。」

「そうだ。分業により、可能になる仕事や成果が、一人の時とは比べ物にならないくらい大きくなる。」

「それは、仰る通りです。」

「一方で、分業すると多くの場合、上流や下流で関連して仕事をする仲間が見えなくなる。コミュニケーションもできなくなるんだ。」

「仰る通りだと思います。」

「とすると、どんなことが起きる?」

「どんなこと、と言いますと?」


組織にできるエアポケット

「例えば、ある部門が『これまで慣例として行ってきたけれど、我が部門ではあまり意味のない仕事がある。これを整理しよう』と考えたとする。」

「良いじゃないですか。改善活動ですね。」

「しかしその仕事は、その部門ではあまり意味がないように思われたけれど、下流工程で働く部門が効率的・確実に仕事する上で重要な仕事だったとする。この場合は、どうだ。」

「それは困りますね。止めてはいけません。」

「とはいえ、そういう問題は、その時にはすぐには気がつかない。時間が経って、実際に問題が生じてから分かるという場合がほとんどだ。」

「そうですね。」

「それに、他部門に影響が出るうちは良い。出ない場合の方がもっと怖い。」

「そうですか?他部門に影響が出ないなら、良いではないですか。」

「お客様のところで品質不良が発見できるという場合でもか?」

「いや、それは困りますね。大変、困ります。」

「今回、話をわかりやすくするために仕事を合理化した場合を考えた。でも、こういう事態は他でも起こり得る。新製品を投入する時に、その製品固有の管理をしなければならないのに、それに気付かない場合などだ。」

「なるほど。」


潜在的問題を解決する責任を負う組織を置く

「さて、事例から考えてもらったが、このような事態に陥った原因は何なのだろう?」

「うーん。難しいですね。こういう問題、顕在化しない限り気が付きませんからね。」

「そうだ。潜在的問題に対応していないから、時には会社を揺るがすようなトラブルに巻き込まれるんだ。このような潜在的問題に対応するため、どうすれば良い?」

「うーん。本当に難しいですね。問題が見えないからこそ、潜在的問題だというのです。潜在的問題に気が付け!というのは、理想論ではありますが、現実的には難しいです。」

「だからと言って、それを放置して良い訳ではない。当社は製造業者だ。自分たちが造った製品には責任がある。『それは潜在的問題なので、気が付きませんでした』という言い訳は通用しないのだ。」

「本当にそうです。その場合、どうすれば良いのですか?」

「潜在的問題を発見して対応することが仕事だという者を設けるという手があるだろうな。」

「なるほど。」

「個人では能力的にも責任の所在としても難しいならば、そういう部署を作ることもできるだろう。」

「なるほど。我が社でいえば品質保証部がそうですね。顕在化した問題だけでなく、潜在的な問題も発掘しながら対応していく。」

「あはは、『発掘しながら』という表現は面白いな。しかし、その通りだよ。業界紙などのニュースで他社のトラブルが報じられたら、自社でも同様な問題が生じ得る要因が存在していないかチェックする。そうして、対応していくのだ。」

「なるほど。」

「さて、今回は潜在的問題を発掘しながら未然に対処していくために担当部署を設けるという話をした。これはマネジメント体制の再構築の中でも組織構造の見直しに該当する。」

「はい。」


対応能力を高めるために決裁権者を工夫する

「しかし、考えてもらおう。潜在的な問題について、担当部署を作りさえすれば、それで良いのだろうか?」

「そう誘導されるとは、そうではないのですね。確かに当社でも、最初は品質担当者から係、課と昇格しながら、今の品質保証部になったという経緯があります。」

「それはどういう意味だ?」

「品質保証に関する仕事が多岐多様に渡り、複雑になったからではないですか?」

「そうとも言える。しかし、別の意味合いも指摘できないだろうか?例えば品質担当者が潜在的問題に気が付いて改善を提案した。係長は応じるだろうか?」

「応じないでしょうね。『ノルマを果たすためには、そんな細かいことを気にしていてはダメだ』とでも言うでしょう。」

「そうだ。では、課長に昇格させたらどうだ。今使っている設備には不具合があるので費用をかけて補修しなければならないという提案が通るだろうか?」

「それを部長が通すとは思えませんね。」

「そうなんだ。そういう経緯を経て、我が社では品質担当は品質保証部となった。決裁権者を上げることで、その対応能力を強めていった訳だ。」


組織や決裁者がうまく機能できるよう情報を与える

「そこまでお聞きすると、マネジメント体制の再構築の中に情報システムが含まれることも納得できますね。潜在的な問題に対応するためには、情報が不可欠です。」

「そうだよな。ある部署が適切に仕事するために必要な情報、その決裁権者が適切に意思決定できるために必要な情報を与えなければならない。」

「今、そういう情報が与えられていなければ、与えられるようにするという意味ですね。」

「そうだ。他部署・他部門から情報を得たり、時には社外から情報を得る必要も出てくるだろう。」


企業活動を高めていくためにマネジメント体制を改善していく

「ここまでお話を聞いて、分かりました。会社をうまく機能させていくためにマネジメントを改善していかなければならない、そして、それを行うためにマネジメント体制を見直す必要がある訳ですね。」

「そうだ。いくらマネジメントを改善しようとしても、マネジメント体制が足かせとなってパフォーマンスが上がらなかったり、時には重大なトラブルに巻き込まれたりする可能性がある。」

「そうならないように、情報、決裁権者、そして組織構造という形で対策を打っていく訳ですね。誰に情報を与えるか、誰を責任者にするか、そしてどんな部署・部門を作るか。まさにマネジメント体制ですね。」

「そうなんだ。マネジメント体制を再整備することは、パフォーマンスを向上させ、潜在的問題にも対処できる能力を身に付けるため、企業にとって不可欠な取り組みなんだ。」

「分かりました。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

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