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マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第26回

部門間調整のためのビルトイン装置

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「各部門は、普段は自律的に機能していること、しかし、いざという時、つまり主には経営戦略の場面と危機対応の場面では他部門と連携することになることについて、教えて頂きました。」

「そうなんだ。こういう場合には、各部門が我が部門第一ではなく、会社として最高のパフォーマンスをあげるために連携しなければならない。その旗振りを、上級マネジャーが行うわけだ。」

「了解しました。」

「ただ・・・。」

「ただ・・・?」


通常オペレーションでの連携

「もう一つ、覚えてもらいたいことがある。」

「何ですか?」

「通常オペレーションにおいても、実は、部門は連携している。」

「そうですね。企業とは分業して大きな成果を得ようとする場なのですから。当社でいえば、企画・開発部門と製造部門、営業部門、配送部門という4つの部門が連携しながら水道用品・部品を生産・供給しています。」

「そうだな。本当はこのような分業をして、つまり連携しているにもかかわらず、普段は連携のことを気にかける必要がない。我が部門の部分最適を考えていれば会社として望ましいパフォーマンスがあげられるようになっている。」

「はあ、そう言われてみると、そうなんですね。」

「これって、不思議だと思わないか?」

「思いますが、何か仕掛けがあるのですか?」

「あるとも、大ありだ。会社には部門間調整のための装置がビルトインされているので、各部門が部分最適で行動しても会社のパフォーマンスが達成されるんだ。」

「どういう意味ですか?」


通常オペレーションにおける戦略的対応の必要性

「各部門が部分最適を考えて自律的に機能すれば、会社として高いパフォーマンスが実現できる。これは、上級マネジャーがそういう仕組みを作ったからなんだ。」

「本当ですか?私は、分業している以上は、自然とそうなるのかと思っていました。」

「自然とね。確かに、そう思っている人は多いだろう。しかし、皆が皆、そういう感覚だと、会社は時としてひどい目に会ってしまうだろう。」

「どういうことですか?」

「例えで考えてもらおう。ラインナップ全体を刷新するような大規模な新製品開発も予定されていない時だ。」

「そういう時は、まさに、各部門は部分最適で自律的に動いているでしょうね。」

「そうだろうな。しかし、上級マネジャーものほほんとしていて良いのだろうか?」

「ダメなんですか?」

「では、そういう、既存のラインナップを量産して会社として収益を積み上げていくという時期が、永遠に続くのか?」

「いいえ、それはないです。そのうち、大規模にラインアップを変えるような新製品開発が必要になってきます。」

「そうだな。それだけか?」

「逆に、旧弊になった設備をバッサリと更新する時もありますね。」

「そうだな。平時でも、将来に実施する戦略への準備が必要になる。」


戦略に従って準備しておくこと

「来期に『大規模にラインアップを変えるような新製品開発』を実施しようとする場合と、『大規模な設備更新』を実施しようとする場合。いずれを選択するかで、準備に差は出るものだろうか?出ないものなのだろうか?」

「具体的にどんな準備をすべきかは思いつかないのですが、差が出るでしょうね。同じであるはず、ないです。」

「そうだな。新製品開発の場合には企画・開発部門が主人公だ。ここへの活発な投資が必要となる。」

「設備更新の場合には製造部門ですね。それはつまり、製造部門への投資な訳ですから。」

「さて、ここで考えてもらおう。我が社では、部門のパフォーマンスを測るために部門会計を取り入れている。」

「はい。各部門が下流部門に製品を販売しているとみなして売上を立て、まるで会社のように収支計算をすることですね。」

「そうだ。こうすることで、例えば売上が振るわなかった場合に、責任を負うべき部門がすぐにわかる。」

「営業部に在庫が溜まっていれば、販売力不足ということですね。一方、在庫が枯渇しているようだったら、製造が追いついていないということです。」

「その通り。そういうふうに部門会計を取り入れている場合、戦略の違いは、どのような影響を与えるのだろうか?来期に『大規模にラインアップを変えるような新製品開発』を実施する戦略と、『大規模な設備更新』を実施する戦略の場合だ。」

「そうですね。もし『大規模にラインアップを変えるような新製品開発』を予定している場合には、企画・開発部門に利益が集まるように、移転価格を設定しておいた方が良いですね。」

「そうなんだ。逆に『大規模な設備更新』が予定されている場合には?」

「製造部門に利益が集まるように設定しておいた方が良いです。」

「そういうことなんだ。」


部門間調整のためのビルトイン装置

「こうやって考えてみると、移転価格って、大切なんですね。」

「そうなんだ。移転価格に関する議論を見てみると、国際間取引に関するものが多い。『税金が少ない国に立地するトンネル会社に利益を集める移転価格を当局が認めない』なんて話が少なくないんだ。」

「それはそれで、移転価格の活用方法なんでしょうけれどね。」

「でも、移転価格をそのように理解してしまうと、我が社における意味合いがかすれてしまう。」

「今、やっとわかりました。移転価格には、通常オペレーションを戦略的意味合いに変える力があるのですね。」

「そうなんだ。移転価格をうまく使えば、会社としてあげた利益をどの部門に配分するのか、能動的に決めることができる。」

「会社としての戦略の方向性と、社内の資金の居場所をシンクロさせてくれるのですね。」

「移転価格を決めることによって、社内の連携が自然と一定の方向を向くように促される訳だ。」

「それを設計することが、上級マネジャーの役割なんですね。」

「そうだ。」

「よく分かりました。通常オペレーションの場面でも、上級マネジャーは、将来の戦略を見据えながら移転価格をうまく調整する役割があるということを。」

「そうやって部門間調整のためのビルトイン装置を活用して経営戦略への布石を打つことが、上級マネジャーの重要な役割なんだ。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

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