マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第22回

現場マネジャーのモチベーション・アップ

落藤 伸夫 2017年9月15日
 
「上級マネジャーが行う『現場マネジャーのマネジメント』について、『現場目標・戦略』と『フィードバック』についてご説明をお伺いしたところです。」

「そうだな。次の『現場マネジャーへのモチベーションアップ』に入ろうか。」

「三上取締役は、モチベーション・アップについては強い思いをお持ちなのですね。以前に、『モチベーションアップとはアメとムチなのですよね』とぽろっと言ってしまい、散々にこき下ろされてしまいました。」

「それはそうだ。中川部長自身が、アメとムチは有効ではない。それでは自分自身も、モチベートされることはないと認めているのだから。」

「そういう側面、否定はできないです。しかし、マネジメントとしてモチベーション・アップのためにできることは、言い尽くされているのではないですか?アメとムチとして。」

「そうだな。私も、そう思うよ。もちろん、この分野ではいろいろ偉い人が研究を重ねているので、今までなかった方策が提案されることはある。しかしそれは、だいたいが、今まであった方策の派生なんだ。そうやって考えると、方策としてはほとんど出尽くしているような気がする。私自身としては、そういう実感だ。」

「なのに、アメとムチをそこまで厳しく批判するのは、おかしくないですか?」

「いやいや。中川部長は、私が言った文脈を理解してくれていないようだな。『方策は、正しいと思う。でも、アメとムチは間違っていると思う』そう言っているのだ。」

「訳が分かりません。アメとムチとしてやっている方策は正しいけれど、アメとムチは間違っているだなんて。」

「いやいや、全くおかしくないよ。そのメンタリティが間違っていると言っているのだ。」

「メンタリティですって!?」


どんな時にモチベーションアップされるか

「部下に対して『この仕事に、もっと前向きに取り組んでほしい。モチベーションを高く持って対応してもらいたい』と思っている時、中川部長だったら、どうする?」

「できることは沢山あります。ゴールを達成すれば報酬を与えると約束するとか、達成できなかったら昇進はないと伝えたりします。」

「そうだな。」

「あれっ?ここで否定しないのですか?今、私が言ったのは、典型的なアメとムチですよ。」

「いや、今、中川部長は『部下にモチベーションを高く持って貰うために評価と報酬というツールを使う』と言ったのに過ぎない。それをアメとムチだと考えているのは、中川部長だ。」

「なるほど。しかし、そう思うことがそれほど悪いことだとは思えません。」

「モチベーション・アップの方法として評価・報酬という手法が開発された時、それについて『アメとムチだ』と考えられたのだろうか?」

「そうではないでしょうね。『目標を達成して、給料が上がったら嬉しいだろう。だからそれを目指して頑張れ』とか、『目標を達成できなかったら、私たちは君をあまり高く評価できなくなってしまう。それではイヤだろう。だったら、頑張ってくれ。』そういうメッセージとして、開発されたのだと思います。」

「まさにそうなんだ。部下が『頑張ってみよう』とモチベーションをアップするのは、アメとムチを与えられるからではない。それをやると自分の評価が上がるし、他人からの評価も上がるからなんだ。」


内的動機・外的動機

「それって、いわゆる『内的動機・外的動機』のことですよね。」

「ああ、そうだな。」

「つまり、部下に対していろいろなモチベーション・アップ策をとろうとする時に、『これをアメとムチとして行おう』と考えるのではなく、『内的動機や外的動機になるように、行なっていこう』と考えろという意味ですか?」

「そうだ。」

「そんな。考え方一つで、そんなに差が出るものですかね。」


アメとムチの場合

「じゃあ、考えてもらおう。目標達成を目指して貰うために『目標を達成できなかったら、昇格できない』という制度を設計したとする。」

「はい。」

「にもかかわらず、達成率が非常に低かった。」

「ムチが、あまり効果を表さなかったという訳ですね。」

「この場合、どうする?」

「目標を達成できなかった場合のムチとして『昇格できない』が効果的ではないなら、もっと効果的なものにすべきでしょうね。」

「降格するとか?」

「そうです。」

「それでもダメだったら、二階級降格するのか?」

「それも、仕方ないかもしれません。」

「では、それで部下はモチベーション・アップされるのかな?」

「あっ。」


内的動機・外的動機の場合

「では、同じ状況を『内的動機・外的動機』で考えてみて欲しい。」

「うーん。」

「自分のことを考えて欲しい。同期一番で現場マネジャーに昇格し、しっかりと仕事している当時のことだ。どんな気持ちだった?」

「私は同期一番での昇進ではありませんでしたけどね。でも、昇格したときは、自分でも誇らしい気持ちでした。自分を評価し、引き上げてくれた上司にも、感謝していました。」

「そういう状況なのに、うまくパフォーマンスがあげられないでいる。どうしたい?」

「とにかく、なんとかしたいですね。」

「でも、上手くいかない。どんな気持ちだ?」

「誰かに相談したいですね。でも、難しいです。」

「なぜ?」

「だって、相談したら『そんなことで悩んでいるのか、自分で処理できないでいるのか』と、低く評価されてしまうかもしれないじゃ、ないですか。」

「そうはいうけどな、上司は、チャレンジングな目標に立ち向かっている時、部下がそういう気持ちになること、よく知っている。自分がそうだったからな。」

「なるほど。しかし、部下としては、評価が下がることが心配です。」

「では、弱みを吐いても低く評価されない『メンター制度』があったらどうだ?」

「いいですね。助かると思います。」


アメとムチではできないこと

「さて、パフォーマンスが低いマネジャーに対するメンター制度。これが『アメとムチ』の考え方から実現するかな?」

「無理でしょうね。それは、目標を達成しない人材にアメを与えることになってしまいます。」

「そうだな。しかし、弱っているマネジャーに目標を達成してもらいたいと思ったら、必要なのはムチか?」

「ムチではありませんね。アメというより、支援です。」

「そうだ。支援してこそ、部下に内的動機も、外的動機も抱いてもらえるようになる。」

「なるほど。現場マネジャーのモチベーションアップについて、『何をするか』も大切ですが、『なぜするのか、何を目指してするのか』が大切なこと、わかったような気がします。」

「それは良かった。」


自分の評価と、他人の評価を上げる

「今、内的動機や外的動機という難しい言葉を使いましたね。もっとプレーンな言葉でも良いのではないかと思いました。」

「どんな?」

「自分に対する、自分の評価や、他人の評価を上げること。部下がそうできるよう、支援するわけです。」

「いいな。そういう気持ちを、忘れないで欲しい。」

 
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。

コラム マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

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