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マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第18回

日常業務と経営戦略を両立させる4つのマネジメント

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「上級マネジャーが現場マネジャーをマネジメントする時、メインの目的として現場オペレーションを経営戦略に調和させることがあるのですね。」

「そうだ。もっと言えば、現場が戦略目標を実現できるように、オペレーションを変えさせることが主眼になるだろう。」

「そのお言葉、聞いていてなるほどなと思ったのですが、よくよく考えてみると、どうすれば良いのか分からなくなってしまうのです。」

「どういう意味だ?」

「経営戦略を実現するために現場の仕事を変えろと言っても、上級マネジャーが、何を、どのように変えるべきかを指示・命令できる訳ではありません。」

「現場の仕事は、現場が一番よく知っているからな。」

「上級マネジャーが『経営戦略を実施しろ、仕事を変えろ』と言っても、現場が『一生懸命やっていますよ。これで精一杯なんです』と答えると、手も足も出ないといったことにならないでしょうか。」

「ならないでしょうか、どころか、なってるよな。我が社でも。」

「そうなんです。そのような状況下、どうやれば現場に経営戦略を実現してもらえるようになるのでしょうか?決め手は何ですか?」

「決め手か?決め手を求めるなら、そんなものはないと答えるしかないだろうな。」

「ないのですか?ではどうやって、マネジメントするのですか?」

「待て待て、慌てるな。俺は決め手はないと言っただけで、打つ手はないと言った訳ではない。」


上級マネジャーによる4つのマネジメント

「打つ手はあるのですね。それは何ですか?」

「前にも言ったように『現場目標・現場戦略の策定・伝達』と『結果のフィードバック』、『モチベーションアップ』そして『配置・育成』だ。」

「ああ、それは以前にお聞きしていたことですね。」

「そうだ。それらを総合的に行うことで、仕事を経営戦略を実現できるものに変えるよう、現場を促していくんだ。」

「『現場目標・現場戦略の策定・伝達』と『結果のフィードバック』、『モチベーションアップ』そして『配置・育成』のうち、一番大切なものは何ですか。」

「一番大切だと言えるものはない。全てが大切だ。全てを行うことによって、目的が実現できるんだ。」

「そうではないかと思いました。念のため、お聞きしてみたのです。4つ全部を、行えば良いのですね。」


4つのマネジメントを関連させる

「そうなんだけれど、単純に4つ全部行えば良いという訳ではない。全てを関連させることに、意味があるんだよ。」

「全てを関連させることですか?どういう意味ですか?」

「4つのマネジメントを、互いに補完するように行なっていくのだよ。一つだけだと、うまくいかない。もちろん、その一つを改善していくことも大切だ。一方で、その一つだけに頼るのではなく、他のマネジメントも補強として使う。そう言うことだ。」

「なるほど。」


『現場目標・現場戦略の策定・伝達』と『結果のフィードバック』

「これら4つのうち、最初にやるべきなのは何ですか?」

「もちろん日常業務では、これらは並行して行われることが多いだろう。しかし考え方としては、『現場目標・現場戦略の策定・伝達』がスタートだろうな。」

「そうではないかと思っていました。そうやって、まず、現場にやってもらうべきことと期待する成果を伝えた後は?」

「実践してもらった上で『結果のフィードバック』を行うことだろうな。」

「目標や戦略を提示して実践してもらい、期末になったら結果を示す。当たり前のことですね。」

「まあ、そうなんだが、俺としてはもっと目的意識を持ってもらいたいな。」

「とおっしゃるのは?」

「そのフィードバック、どういう趣旨なんだ?」

「現場を評価するためなのではないですか?合格ならボーナスが出る。不合格なら出ない。あまりにひどいと降格が待っている。」

「今、会社で行われているマネジメントが、まさにそのような趣旨だと言うことは重々、承知している。しかし、それで良いのだろうか?」

「他に、何かあるのですか?」

「もし、戦略目標が達成できなかった場合は?それをフィードバックする本当の意味は何だ?」

「次回は、もっと頑張ってくれということでしょうね。」

「その通り。しかし、前と同じことをすれば良いのか?前と同じことを、もっと力を注いでやれば良いのか?」

「それだけではないでしょうね。やり方を変えなければならない時もあると思います。」

「そうなんだ。前と同じことを、もっと力を注いでやるべき時もあれば、やり方を変えなければならない時もある。それを考えた上で、次期に臨んでくれという意味だ。」

「なるほど。そういうフィードバックですか。」

「とすると、フィードバックで投げかけるべき言葉も違ってくるのではないか?」

「そうですね。評価の場合だったら『今期は目標未達だった。これではボーナスは出ないぞ。来期は頑張ってくれよ』になると思います。」

「本来のマネジメントだったら?」

「言うべきことが違ってきますね。『今期は目標未達だった。何が原因だ?来期は何をすれば良い?早急に考えて、報告して欲しい』になると思います。」

「そうだな。『それをもとに来期のプランを立て直そう』と言うのだろうな。」

「そういうフィードバックを行うのですね。」


前二者とモチベーションアップ

「そうやって、来期を迎えた。でも、思ったような成果が出ない。みんなも疲れているようだ。そういう時、どうする?」

「モチベーションアップですね。」

「どういうモチベーションアップなんだ?」

「目標を達成できる見込みがないからこそ、力を抜かずに頑張れと声をかけるのでしょうね。」

「それでモチベーションが上がるのか?」

「いや、上がらないかもしれないけれど、これしかないのではありませんか?」

「そうだろうか?今『モチベーションアップ』と言ったが、何を目指したモチベーションアップなんだ?」

「仕事に邁進することではないですか?」

「そうかな。」

「『そうかな』ですって?仕事に邁進してもらわなくて、良いのですか?」

「いや、みんな何を目指して仕事しているのかなと思って。」

「それは、目標を達成するためですよね。」

「そうだろ。だったら、モチベーションアップは『頑張れ』でなくても良いのではないか?」

「なるほど。『目標を達成するために自分たちのしなかったことは何だろう』であっても良いのですね。」

「そうなんだ。『今度は少し違った取り組みをしてみよう。もうひと頑張りだ』というモチベーション策も、取り入れて欲しい。」

「それが、他の要素と連携した上でのモチベーション策なのですね。」


前三者と配置・育成

「そう言われて、配置・育成についても分かってきたような気がします。」

「うんうん。」

「私の感覚なのですが、我が社には『現場はスペシャリストに。マネジャーはゼネラリストに』というという不文律があるような気がするのです。」

「俺も、そう感じているよ。」

「そういう不文律ができたのは、もっともな理由があったのだと思います。でも。」

「でも?」

「今は形骸化してしまったのではないかと感じています。『課長のA君は、もう、あのポジションで3年なのか。昇格には早いので、もう一回、別の部署の課長をやらせるかな』と考えるという感じで。」

「どこの部署に移動させるかについて、はっきりとした理由はないのか?」

「ありますよ。『A君は昔、製造現場にいたことがある。だからその経験を活かしてもらうために、製造現場のマネジャーになってもらおう』という場合があります。もっとも、『A君は今まで、購買部門に行ったことがない。だからここで経験を積んでもらおう』という場合もあります。」

「それって、実際は『はっきりとした理由はない』ということだよな。」

「そうです。これを、どうすれば良いのですか?」

「発想を変えたらどうだろう。『異動時期が来たマネジャーを、どこに行かせるか』ではなく、『なかなか成果を上げられないB部署を、誰だったらうまくリードできるのだろう?』というように。」

「なるほど。それが真の適材適所かもしれませんね。」

「育成も、同じように考えられるだろう。」

「そうですね『A君にはマネジャー研修を受けさせた、リーダーシップ研修も受けさせた。今度は会計研修かな』ではなく、『これまで、他の誰もなかなか成果をあげられなかった部署に行ってもらうのだから問題解決研修を受けてもらおうか。それともレジリエンス研修の方が良いかな。自分で選んでもらおう』という感じでしょうか?」

「そうだな。とにかく言えることは、『現場目標・現場戦略の策定・伝達』と『結果のフィードバック』、『モチベーションアップ』そして『配置・育成』は、とにかくやれば良いというものではない。日常業務を行いながらも戦略目標を達成できるよう現場が仕事を変えていけるように、各々を連携させることが大切なのだ。」

「わかりました。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

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