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マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第14回

具体戦略へのブレークダウン支援

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「前回、上級マネジャーは、経営陣が基本戦略、つまり経営戦略の中でも最上位の方針を定める上で情報提供しなければならないというお話をお聞きしました。」

「今回は、次に行こう。次は、経営陣が基本戦略をブレークダウンして具体戦略を策定する支援をすることだ。」

「基本戦略のブレークダウンですって?それは何なんですか?」

「もっともな質問だな。まずは、基本戦略は、どのようにすれば現場で実行されるのかを考えてみよう。」


経営戦略とは「仕事を変えること」

「まず、経営戦略とは、何なのだろう?」

「会社の大方針ですか?」

「なんとまあ、荒っぽい表現だな。例えばどんな経営戦略がある?」

「我が社では、品質で選ばれる製品を作ろうという方針が立てられました。」

「そうだな。価格競争よりも品質で存在意義を打ち立てていく、そういう方針を選んだ。まさに、基本戦略だ。」

「はい。」

「でも、そう言われて、現場は基本戦略を実現できるのだろうか?基本戦略を実現できるような動きができるのだろうか?」」

「いやあ、それは無理ですね。だから品質管理部を設けたのでした。」

「そうだな。一歩ブレークダウンされた具体戦略が描かれた訳だ。一方で、品質管理部を設けたら、現場は動けるのだろうか?」

「いえ、それも無理でしたね。品質管理部のリーダーシップを受けとめられるよう、現場に体制を敷くことも必要でした。」

「製造や企画・設計等に関わる部署には、品質管理担当を置いたのだったな。」

「最初は、各課に担当者の名前を申告させるという形をとりました。なので各課は、若手の名前を申告してきたのです。しかし、品質管理部からの指示が、各課の仕事に大きな影響を与えるので、それではいけないという結論になりました。」

「中には、普段の仕事を中止して取り組むような依頼もあったからな。そんな依頼を、若手が理由も聞かずに受諾してきたのでは、現場としてはやっていられない。」

「なので結局は、品質管理担当は課長になりました。」

「これも、戦略のブレークダウンとして行われた訳だな。」

「そうです。」

「さらに聞いてみよう。これで、現場は基本戦略を実現できるのだろうか?そういう動きができるのだろうか?」

「いや、それも無理ですね。それからすったもんだしながらも、品質管理部が旗振りをして、マニュアルや手順書等を見直してもらいました。」

「内容は各課の自己判断に任せるが、それをきちんと行えば数値目標が達成できるはずな内容にすべしという趣旨だったな。」

「そうです。ここで結構、カラーが分かれましたね。きっちりとマニュアル・手順を見直した課と、あっさりとしか見直さなかった課がありました。」

「品質管理部としては、あっさりとしか取り組まない課があったことに、最初は気に入らなかったようだが、結果的には社会実験ができた感じだったな。やはり、きちんと見直した方が成果があがるという結果になったから。」

「そうですね。時間はかかりましたが、自然と徹底される形になりました。」

「こういうプロセスを経ないと、現場の行動は変わらないという訳だ。」

「ブレークダウンするプロセスを踏むべしという意味ですね。」

「そうだ。ここまでのブレークダウン・プロセスをきちんと踏んでいったので、現場が動けるようになった。具体的に言えば、普段の仕事での行動を、今までのものから経営戦略を実現できるものに変えることができたんだ。」

「そうですね。それができて、やっと、成果が現れた訳です。」

「復習してみよう。経営戦略、それも基本戦略とは、何だ?」

「現場に動いてもらう、つまり仕事の仕方を変えてもらう、その出発点ということですね。」


基本戦略のブレークダウン

「さて、今度はプロセスの方をおさらいしてみよう。基本戦略は、どのようにブレークダウンされた?」

「まず、品質管理部を置くという判断、そして品質管理部のカウンターパートとなる担当を各課におくという判断がされました。このことを『具体戦略』と仰りましたね。」

「そうだな。具体戦略は、なぜ、経営陣が策定しなければならないのだろう?」

「確かに。現場に任せてはダメなのでしょうか?」

「そうしている企業も少なくないのだろうと思う。当社でも一時は、そのような雰囲気に流れた。でも、それではうまくいかないんだ。」

「どうしてですか?」

「基本戦略とは、文字どおり基本だ。」

「はい。」

「と言うことは、それをやる方法、選択肢は複数存在する。それに決着をつけておかなければ、現場に任せてもうまくいかない。」

「現場毎に違った選択肢を想定してしまうかもしれませんね。」

「そうなんだ。そういう混乱が生じないように、現場に権限移譲する前に会社としての基本的アプローチを決めておく必要がある。」

「選択肢を一本に絞るのですね。だから『具体戦略』というのですね。」

「そう言うことだ。」

「次は?」

「品質管理部の中で、現場に何を求めるのか、決められたのでしょうね。その結果、成文化された品質方針書が策定されて発表になりました。それには、クレーム削減に係る数値目標も掲げられていました。」

「うんうん。これを『現場の基本方針』と言うことにしようか。それから?」
「現場に、新たに提示された品質方針書をベースにマニュアルや手順書等を見直すように指示がありました。」

「そうだな。これを『現場の具体方針』と言うことにしようか。それに合わせて『現場計画』を立てることも多いだろう。」

「そして『実行』された訳ですね。」

「そう。その時には『現場マネジメント』があったはずだ。」

「そうですね。」


各フェイズの担当

「今度は各フェイズの担当を明らかにしていこう。基本戦略は?」

「もちろん経営陣ですね。」

「その具体戦略は?」

「品質管理部や各課の担当という組織上の決定ですね。それも経営陣です。」

「そうだな?次の品質方針書は?」

「これは品質管理部でしたね。経営陣と擦り合わせたのでしょうけれど、作成に携わったのは品質管理部です。具体的に言えば、上級マネジャーということになりますね。」

「次のマニュアルや手順書等の見直しは?」

「現場マネジャーです。課長がリードしながら、現場に検討させたのでしょう。」

「そうだな。そして『実行』あるいは『徹底』された訳だ。」

「こうやって、基本計画から実行まで、会社内の階層を経ながら、ブレークダウンされていったのですね。」

「そう言うことだ。」


具体戦略策定に関わる

「以上のご説明からすると、経営陣が基本戦略から具体戦略にブレークダウンする時に、上級マネジャーが関わるということなのですね。」

「そういうことだ。」

「こちらも、自分がしゃしゃり出る訳ではなく、求められてということになるのでしょうね。」

「もちろん、そうだな。」

「そう考えてみると、以前に私が品質管理部設置の時にお声がかかったのは、そういう場面だったのですね。」

「そうだよ。」

「そうなんですね。こうやってみると、あの時は、状況をよく呑み込めていなかったこともあり、あまり上手く対応できていなかったように思います。」

「それは残念だな。中川部長の知見を思いっきり発揮してもらいたかったところだ。」

「次回のために、上級マネジャーとして対応するヒントをもらえませんか?」


具体戦略策定に協力する

「一番に念頭に置いてもらいたいのは、経営陣は具体戦略を策定する途上にあると言うことだ。」

「はい、それは分かっています。」

「どういうことが分かっている?」

「戦略の具体化に向けて、現場サイドの詳細な情報を提供するということですよね。」

「実は、それは違う。」

「えっ、それはどういう意味ですか?」

「具体戦略策定のポイントは、個別具体的な計画を練っていくということではない。基本戦略を実現するための選択肢をできるだけ挙げて、それを評価するということなんだ。」

「選択肢ですか?」

「例えば、品質向上を目指す我が社の基本戦略展開について考えてほしい。我々の結論は品質管理部だったが、選択肢はそれしかないのか?」

「いえ、それは違います。私たちは独立した品質管理部を置くという結論になりましたが、最初は類似の機能を工場に持たせるという案もありました。」

「そうだな。そしてこれらは組織上の対応だが、それ以外の選択肢も検討されたのではないか?」

「インセンティブ制度も検討されました。よい品質の製品ができればボーナスをはずむ、不良が多ければボーナスは最低レベルになるという制度です。」

「そうだな。他にも、なかったか?」

「現場主導でマニュアルや手順書を整備させて、自主運営させようというのが、そもそもの出発点でした。結局は、うまくいきませんでしたが。」

「そのように『高い品質を我が社の存立基盤とする』という基本戦略を打ち出したとしても、それを実現する経路はいくつもある。」

「それら選択肢を提示することと、出てきた選択肢を現場サイドの観点で検証すればよいのですね。」

「そういうことだ。」

「なるほど、私には、それが求められていたのですか?」

「そうなんだ。次からは、きっちりと対応してもらいたいところだ。」

「了解しました。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

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