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マネジメントを再考してみる 前編<現場マネジメント>

第4回

テイラーが生み出したマネジメント

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「今の我が社のマネジメントでは、我が社の理念である『プロフェッショナルたれ』を実現させることはできないと仰る意味を、教えてください。」

「それはもう、半分説明したと思うがな。今までのマネジメントとは、徳川家康やマックス・ウエーバーの考えた仕組みによって成り立っているマネジメントのことだ。」

「徳川家康やマックス・ウエーバーの考えたマネジメントは、身分制度や権限などをベースにしているので創意工夫を邪魔していると三上部長が考えておられることは、理解した積もりです。でも、組織というもの、マネジメントというものがそれで成り立っているなら、仕方ないではありませんか?そういう欠点があるなら、そういう欠点を踏まえながらなんとか運用していく。それしかないんじゃないですか?」

「俺も長い間、そう思っていた。でも、ある時、ふっと気が付いたんだ。欧米も日本と同じような考え方でマネジメントしているとするなら、なぜ日本だけがマネジメントのパフォーマンスが低いのだろうとね。」

「そういえば、日本のホワイトカラーの生産性は、先進国の中でも格段に低いと言いますよね。」

「そうなんだ。」

「で、結論は見えてきたんですか?」

「本当の答えかどうかは分からないが、たぶん答えではないかという仮説には思いついた。」

「すごいじゃないですか。どういう説なんですか?」



「欧米のマネジメントは、どのように生まれたのだろう?」

「ドラッカーが『マネジメントの父』と呼ばれているようですね。」

「確かにそうだ。しかしドラッカーは、それまでマネジメントというものがない中でマネジメントを生み出した訳ではない。マネジメントとは何かを体系付けて説明した功績でもって『マネジメントの父』と呼ばれているんだ。」

「はあ。」

「でも、まだ体系付けられてはいないけれど、マネジメントの片鱗というか、マネジメントの赤ちゃんとも呼べるようなものは、もう少し前からあったんだ。」

「というと?」

「体系付けられてはいないけれど『マネジメントの根本』とでもいえるものが、もう少し前に生まれていたということだ。」

「それを生んだのは、誰なんですか?」

「俺は、テイラーを代表とした、その時代に生産効率向上に努力した人々ではないかと思っている。」



「流れ作業を開発したフレデリック・テイラーですね。でも、生産効率を向上させたからマネジメントの生みの親だというのは、理屈が分からないのですが。」

「俺は、テイラーが生産効率を向上させるために採った方法に注目して、そう言っているんだ。」

「そのこころは?」

「テイラーは、今までのやり方とは格段に生産性の良い方法を考えて、それを作業者に伝るという方法を採った。そうやって自動車の生産効率を極限まで高めたんだよ。」

「それの、どこがすごいのですか?」

「それまで、生産に関わる知識や技能は優秀な者が囲い込んでいた。その典型例は親方だな。親方は、弟子は取るけれど教えない。そうやって部下を操っていた訳だ。」

「今の日本にも、そういうところがあるのでしょうか?」

「そうかもしれない。でも、テイラーは違った。効率よく製品を生産する方法を見つけて、それを従業員に教えていった。そうやって生産性を高めたんだ。俺は、それがマネジメントの本質ではないかと思っている。」



「その頃のフォードと他社の生産性の違いは、すごかったと聞きました。」

「そうなんだ。それを決定付けたのが流れ作業だ。」

「イノベーションですね。」

「確かに、それは生産技術上のイノベーションだが、マネジメント上のイノベーションともいえると思う。」

「そのこころは?」

「効率よく生産する方法といっても、2種類ある。一つは作業員がやっている作業を改善していく方法だ。これをマネジメントとして行うことで、テイラーたちは大きな成果を生み出した。でも、そういう改善は、作業員にお願いすればできるかもしれないことだ。」

「なるほど。」

「一方で、流れ作業を考えつくなんてことが、作業員に可能だろうか?」

「なかなか難しいでしょうね。」

「その通り。でも、どうしてだと思う?」

「目の前にある仕事を上手くやるという考え方からは、流れ作業という発想は生まれてこないからです。もっとレベルの高い視点を持った人じゃないと、思いつかないと思います。」

「その通りだ!」

「部長に誉められると、嬉しいですね。そうあることではないですから。」

「俺はそんな、冷血人間じゃないぞ。」

「まあ、・・・仰るとおりです。」



「実際の仕事は現場の作業者がするが、彼らとは違った立場にあるマネジャーという人たちが、彼らの仕事を効率化させる方法を専門的に考えて、彼らを指導していく。そういう考え方とか仕組みを、マネジメントとして、テイラーたちが生み出した。それが俺の仮説だ。」

「そういわれてみれば確かに。」

「実はここが、日本のマネジメントと欧米のマネジメントの決定的な違いなのではないかと、俺は思っている。」

「現場の作業者に言うことを聞かせることがマネジメントだと思っている日本と、現場の作業者がよりよい仕事ができるようにサポートするのがマネジメントだと思っている欧米。そこに違いがあるということなんですね。」

「そういうことだ。」
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

「世界の先進国では日本だけが一人負け」という話を聞くことがあります。世界が日本を羨んだ “Japan as No.1” からまだ40年ほどしか経っていないのに、当時、途上国といわれていた幾つかの国々の後塵を拝している現状です。

それを打開する方法の一つに、マネジメントを高度化していくことがあると思われます。日本のホワイトカラーの生産性は先進国では最低だといわれていますが、逆に言えば、マネジメントを改善すれば成果を飛躍的に伸ばすことができる可能性があります。

筆者は Bond-BBT MBA でMCS(マネジメント・コントロール・システム)論を学んで以来、マネジメントでもって企業の業績をあげる方法について研究してきました。マネジメントを合理的に考え直し、システムとして組み直すのです。StrateCutionsで行うマネジメント支援の理論的背景や方法論を、お知り頂ければと考えています。


Webサイト:StrateCutions

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