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社会によろこばれる会社のESを軸とした組織づくり

第4回

数値目標から人間性を高めるための経営へ

 

「社員が大変な仕事にやりがいを見つけている」、「仕事を通じて会社も社員も成長している」、経営者であれば多かれ少なかれ、こんな人間性を高める経営に興味をお持ちでしょう。 しかし、理屈では分かっていても、いざ仕事の現場に入ると、目先の数値目標と勝負しなければならならず、社員がどんな気持ちで働いているかにまでは何々目が届かないのが現実です。 結論的に申し上げると、人間性向上の経営を実践するには、経営者が腹を決め、目先のロスを承知の上で人を育てることに時間とお金を注ぐ覚悟が必要です。
ある障がい者雇用で有名な会社は、2ヵ月で育てて2年で辞める社員よりも、2年の教育期間はかかるが20年活躍してくれる障がいをもった社員を育てた方が会社にとってメリットがある、だから障がい者雇用を取り入れていると話しています。 仕事を通じて社員の人間性を高めていくことが、長い目で見て会社の業績向上につながり、持続的発展を可能にする、こんなサイクルに一人でも多くの経営者が共感する世の中にしていきたいものです。

実は、そんなきっかけが数年前にありました。
お読みになった方も多いかと思いますが、人間性尊重の経営をしている会社を紹介した本「日本でいちばん大切にしたい会社(坂本光司著)」がベストセラーになりました。 この本で取り上げられている会社は、第一に従業員を大切にし、その結果会社も持続的に成長し、そしてお客様からも必要とされています。

そこで本コラムでは、「日本でいちばん大切にしたい会社」をご自分で創りたいと志す経営者のために、人間性を高める経営に役立つ具体的な方法を三つに分けて紹介します。
一つ目は「人間性向上の評価制度を導入しよう」、二つ目は「会社文化と社員の人間性を向上させるクレドの活用」、三つ目が「社員の感性を磨く体験プログラムの提案」です。
明日から取り入れられるものや少し時間のかかるものもあります。日ごろご多忙の経営者の皆様には、どうぞご興味のわく所からお読みいただければと思います。

1 人間性向上の評価制度を導入しよう

人は誰でもプラスの評価を受ければ嬉しいものです。
社員の正しい行動を、時々の感情に流されずに、きちんと評価してあげられる会社であることが、人間性を高める経営の第一歩と考えます。そのためには、会社としてプラス評価する行動例と評価方法を明確に示すこと、これが大事です。

まず、評価方法から考えることにします。
私の提案は、明日の業務をこなすのに発揮してほしい積極性、柔軟性、協調性、ストレス耐性などの能力(発揮能力といいます)を重視することが、人間性向上の経営につながると考えます。仕事の結果を見るだけでなく、どんな能力を発揮して仕事にあたったかを評価するのであり、仕事への取り組み姿勢が直に問われる所です。

私の経験を紹介させていただきます。
現在、障がい者の就労支援に携わっているのですが、人は直ぐに心を変えるのは難しいと感じています。しかし、行動を変えること(良い行動習慣をつけること)によって、知らぬ間に心も変わっていった方を沢山見ています。
一例として、知的障がいの男性(30歳)を紹介します。
彼は作業をする体力、能力は十分にあるのですが、苦手なことが多く(例えば、大きな音、人混み、風船、中高年の男性など)、その結果、何に対しても躊躇しがちで存分に取り組む経験がもてないでいました。
ある時、周囲の勧めもあって、施設活動で習っているエアロビクスの検定試験に挑戦することになりました。検定を受けるからと、普段は大嫌いな練習に我慢して参加し、人と目を合わせるのも苦手なのですが先生と頑張って会話し、検定当日は人混みの中で受けることができました。
結果、検定に合格でき、それ以上に彼の日常生活が別人のように変わりました。特に作業に対する集中が周囲で見ていて信じられないほどに高まったのです。これも、検定に挑戦するという行動を起こしたがゆえの心の変化なのでしょう。

この現象は、障がいの有無に関わらず共通していていると思うのです。
社員が直ぐに心を変えるのは難しいが、仕事への取り組み姿勢を追求することで、社員の心が変わり、結果的に数値目標も上がってくるはずです。こんな視点で社員を育てていきましょう。

次にプラス評価の行動例について、当然ながら、職種に応じて期待される内容が異なります。
経理ならば正確性、営業ならば積極性に付随した行動が重視されるでしょう。私は福祉職ですが、推奨したい能力は、積極性、協調性、ストレス耐性といったところです。
プラス評価する行動例の作り方としては、推奨する能力に即した行動例を、社員の良い行動を思い浮かべながら具体的に書き出してみましょう。あなたの職場に適した行動例を挙げることが出来るはずです。
大事なことは、書き出した行動例を社員と共有すること、つまり一方通行で評価するのでなく、事前に推奨する行動例を社員に示し、評価を通じて社員と対話する姿勢をもつことです。
そんな対話が、良い行動は良いと素直に認められる会社創りに繋がるのです。

2 会社文化と社員の人間性向上させるクレドの活用

会社には、そこで働いている人たちが創る社風、文化があります。
経営者の思いと、そこで働く人の思いが融合して良い会社文化はできるものです。大切にしたい文化をもつ会社は、まさに人間性の高い経営者、社員が居る証拠であります。なので、この章では良い会社文化づくりの具体的方法について提案します。

皆さま、クレドという言葉をご存知でしょうか。大分一般化してきたのでご存じの方も多いことでしょう。
クレドは信条を意味するラテン語で、会社でつくるクレドは、社員の行動基準として用いられます。社員が毎日の仕事で、また行動に迷った時に参照できるものであり、クレドを創る段階では社員の価値観の共有化もできます。有効活用すれば、良い会社文化を創るツールになります。

次に、クレドの効果的な作成、運用方法について、実際に私がある会計事務所で作成に関わらせていただいた経験を基に書きます。
作成段階では、まず社員同士の価値観を共有します。仕事を通じて得た成功体験、職場の良い点について紙に書きます。それを、回し読む、発表し合うなどの方法で共有するのです。そして、印象に残った言葉を付せんに書き出して、模造紙に貼りだします。やってみると、視覚的にみんなの価値観が共有できることに気づくはずです。たいていの会社では、照れもあって社員さん同士で仕事の価値観を話し合うことは無いでしょう。でも、意識的に少しの時間を設けることで、お互いの価値観を共有できる、職場の雰囲気がぐっと良くなるのです。
実はこの点がどんなクレドを創るかよりも大事なところです。紙、付せん、模造紙さえあればどの会社でも明日からできますので、ぜひ一度試してみてください。

次の段階では、共有したキーワードに優先順位をつけたり、キーワードに思いを付加し、文章化してクレドとして活用しやすい形にします。
この段階になると、従業員の多い会社ではクレド作成のプロジェクトチームを作る、全員で取り組む小さな会社でもチームリーダーを決めたりと、技術的な援助が必要になります。
私が関わらせていただいた会社は、全社員が10名未満の小さな会社でしたので、将来の会社を担う人材を作業リーダーに決めて、パートさんも含めて社員全員で作業しました。作業をしている中で、パートさんから良い提案が出てきたり、意外にも絵心のある人が見つかったりと、深く作業をすることで会社のコミュニケーションが図られること間違いなしです。

特別にクレド作成の作業をしなくとも、うちの会社は社員間の輪があり、働く環境も整っている、このようにおっしゃる経営者もいると思いますが、しかし作業をしてみることで社員の意外な能力に気づくものです。これは実際に取り組んでみて初めてわかる感覚ですので、人間性を高める経営に覚悟を決めている経営者にはぜひお薦めしたいです。

最後にクレドの活用と効果についてです。
例えば、「気持ちよい挨拶」、「常に仕事を楽しむ」をクレドに掲げた会社があったとします。活用方法は、毎朝の朝礼で復唱する、クレドに基づいた行動の結果得た気付きを発表するなどが考えられます。社員全員でこの2項目を実践したら会社はどう変わるでしょうか。
悪い方向にいくはずがありませんね。一番申し上げたいのは、一度クレドを創ることで継続的に社員の行動を磨く指標ができます。継続的に行動を磨くと会社の文化は成熟します、それに伴って社員の人間性も高まっていくのです。

クレドは即効性こそありませんが、漢方薬のように地道に取り組む会社にはじわじわとその効果が出るものです。人間性向上経営のためにぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。

3 社員の感性を磨く体験プログラムの提案

人には行動に目覚める瞬間があるといいます。その原因の多くは強く感情をゆすぶられる経験だといいます。
人間性向上の経営に役立つ三つ目の提案は、普段の仕事とは全く離れた感性を磨く体験プログラムです。皆様の会社で、東日本大震災を機に、自発的にボランティア活動に参加された社員もいるのではないでしょうか。個人的にボランティアしたい社員にボランティア休暇を認めるのも一つの手です。ボランティア休暇を積極的に薦めて、活動を終えた社員の発表会を設けるのもいいでしょう。

志ある経営者にもう一歩進んで提案したいのが、会社として体験プログラムを設けたらどうかということです。社員研修として、社員の福利厚生としてなど方法はいろいろです。

一例として、共感資本を創り出す「障がい者作業所体験プログラム」を紹介します。
共感資本とは、企業のCSR(社会貢献)や従業員満足度を高める取り組みから生み出される企業ブランドです。東日本大震災では、被害を受けながらも必要とされた会社があり、一方で被害はそれほどでもなかったが今後の経営を考えて廃業した会社がありました。
世の人やそこで働いている社員からの「共感」を第一の資本として成長できる会社がこれから伸びていくのだとはっきりしてきました。そこで、会社としては共感資本を高めるプログラムを取り入れない手はありません。
その一つが、社員研修としての「障がい者作業所体験プログラム」です。世の人が一歩障がい者作業所に入ると、その仕事に対する一生懸命な取り組みにぐっと心を動かされると思います。私は、知的障がい者の就労支援をしていますが、一般的に知的障がいをもった方は多くのことをするのは苦手ですが、一度身についたことは私達よりもずっと丁寧、正確にこなす能力に長けています。作業の準備、取り組み姿勢など、身に着くまでにはもちろん時間がかかりますが、長くやっていると本当に毎日一生懸命に実践されます。そばで見ている私が彼ら彼女らの一生懸命な姿勢から日々元気をもらっているのです。
なので、きっと会社の方が研修にいらしても、感動して元気になっていただける、そして日ごろ忘れかけている働く目的について再認識する良い機会になると確信しています。
障がい者施設の作業種目としては、室内軽作業、清掃、農業など様々ですが、清掃、農業など体で働くを体感できる内容だとなお良いと考えています。

他にも、例えば商店街の清掃ボランティアに参加、地域の老人会と一緒に花を植えるなど、地域の特性に応じてプログラム構成はいくらでも創れると考えています。
魅力ある体験プログラムをご提案できるよう試行中ですので、ご興味のある経営者はぜひお問い合わせください。

本コラムでは、三つの提案をさせていただきました。
一つ目と二つ目は社内で取り組む人事評価とクレド作成について。三つ目は仕事とは全く離れた体験プログラムの提案でした。

特にこれからの世の中は、社員が社会、環境とのつながりを深められる三つ目の提案に取り組む企業が増えると予想しています。その理由は、一つには、ツイッター、Facebook等のソーシャルメディアの急発達を挙げます。以前は、仕事とプライベートを分けることが美徳でした。
これからは、一会社員が自分の立場を明確にして意見や興味関心を発信する、そんな行動が会社のブランド力や社会性を高める時代となったのです。
二つ目に、東日本大震災での非日常体験を挙げます。非日常を経験することで、人は一つになれたり優しくなれたりすることを、日本全体が肌で感じる経験をしました。

私が所属している日本ES開発協会では、「社会によろこばれる会社づくり」を目標に、誰もが参加できるGood jobプロジェクト(働くを考えるイベント、日光街道徒歩行軍など)を行っています。イベントを通じて焦点としているのは人です。人が育てば、その人が次世代の人を育て、その結果会社は持続的に発展し、ひいては社会全体の持続的成長が可能になるからです。Good jobプロジェクトは、非日常を自分から体験する絶好の機会です。ご興味のある経営者はぜひお問い合わせください。

「数値目標から人間性を高める経営へ」が当たり前の世の中を、志ある経営者の力で創っていきましょう!

第4回コラム執筆者

前田 豊(まえだ ゆたか)

前田 豊(まえだ ゆたか)

有限会社人事・労務 パートナーコンサルタント
日本ES開発協会 実行委員会 幹事
社会保険労務士
介護福祉士

東京都あきる野市在住。東京学芸大学卒業後、知的障がい者の作業所に勤務する。
知的障がい者の勤勉さや人を和ませる優しさに触れることで自分が元気になった経験から、企業の社員も社内に障がい者がいることで元気になれるはずと確信する。
今後は、「障がい者雇用で中小企業の経営を支援する」をミッションに、企業の社員が障がい者と共に活動して元気になるプログラムを提案していく。

URL:http://www.jinji-roumu.com/unyou/index.html

 
 

プロフィール

有限会社人事・労務

現在社長を務める矢萩大輔が、1995年に26歳の時に東京都内最年少で開設した社労士事務所が母体となり、1998年に人事・労務コンサルタント集団として設立。これまでに390社を超える人事制度・賃金制度、ESコンサルティング、就業規則作成などのコンサルティング実績がある。2004年から社員のES(従業員満足)向上を中心とした取り組みやES向上型人事制度の構築などを支援しており、多くの企業から共感を得ている。最近は「社会によろこばれる会社の組織づくり」を積極的に支援するために、これまでのES(従業員満足)に環境軸、社会軸などのSS(社会的満足)の視点も加え、幅広く企業の活性化のためのコンサルティングを行い、ソーシャル・コンサルティングファームとして企業の社会貢献とビジネスの融合の実現を目指している。


Webサイト:有限会社 人事・労務

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