知恵の経営

第34回

伝統のスズ食器直販で人気

アタックスグループ 2015年8月26日
 

 独自の「池(市場)」を見つけ、池の「クジラ(圧的なシェア・ナンバーワン)」となって高収益を実現した中小企業を紹介している。12回目は「曲がる器」や「富士山の杯」など100%スズ製のテーブルウエアで話題の鋳物メーカー、能作(富山県高岡市)の池クジラぶりをみたい。

 4代目の能作克治社長は大阪芸術大学を卒業後、新聞社の写真記者を経て、1984年、義父が経営する能作に入社した。400年伝わる鋳造技術をベースに青銅・真鍮(しんちゅう)製品を問屋に卸していたが、能作社長は最終商品の形も販売先も消費者のニーズも知らなかった。下請けに満足せず「製品の評価を直接ユーザーから仰ぎたい」という、業界では全く非常識な熱い思いを募らせた。

 飛躍のきっかけは高岡市が開いた企業とデザイナーとの交流会だった。品質・デザイン・技法のレベルの高さに驚いたデザイナーから「原宿で作品展を開催しないか」と誘われた。そして販路を持つデザイナーが新たな販売チャンネルになることに気づいた。

 自社製品の販売では産地問屋が持つ流通網とは直接取引しなかった。問屋に仁義を尽くし、競合する「営業」を置かないことにした。代わりに次々とデザイナーと提携して小売店への直販チャンネルを広げ、真に製品を欲しい人だけが買ってくれる直販構造が出来上がった。

 素材にスズを採用したことも飛躍的な成長の転機となった。小売店の販売スタッフから「金属製の食器が欲しい」という要望を受け、食品衛生法上、曲げやすいスズを採用したが、これが爆発的な人気を得たのだ。

 伝統的なスズ工芸品は鹿児島などが有名だが伝統にこだわって昔ながらの道具製造にとどまり、能作の「匠とデザイナーのコラボによるスズ製の『作品』市場」とは完全に一線を画している。同社はこうして「池クジラ」になった。

 一方で、能作社長は早くからロット生産設備を撤去し、1個でも作る方針に変えた。生産効率は落ちたが職人の技術力が向上し、問屋からも高い評価を得た。事業を拡大するなかでも「匠の技」を大切にして、多品種少量生産体制を崩さず、多くのデザイナーの要求に対応できる生産体制を確立した。

 能作社長は「最終ユーザーのいろんなリクエストを実現するブランドでありたい」という。伝統工芸品市場にイノベーションを引き起こすことで、高岡から「小さな池のクジラ」として、新たな価値を生み出し続けていくに違いない。

<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明
2015年8月26日「フジサンケイビジネスアイ」掲載
 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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