知恵の経営

第101回

支援学校卒業生の受け皿に

アタックスグループ 2017年1月25日
 
 奈良駅から車で30分ほど走った田園風景の見える奈良市の郊外に、社会福祉法人「青葉仁会」の数多くの拠点がある。任意団体としての事業開始は1980年だが、社会福祉法人になったのは90年だ。

 設立の目的は就労を希望する障害者の自立支援。自立のためには「働く場・生活の場・楽しむ場」という3つの場が必要と考え、順次事業を拡大してきた。現在の事業は、レストラン、食品加工、木工、石けん製造、お茶やお米などの農業、民宿、生活支援など実に多彩である。

 創業のきっかけは、榊原典俊理事長らの前職に大いに関係している。

 榊原氏たちは団体を立ち上げる前まで、特別支援学校の教員だった。想像を絶するが、教員として最もつらいのは高等部3年生を送る毎年3月だったという。本来なら、つらいどころか、おめでたい月である。

 一般的には高校を卒業して就職する生徒は当然のこととして、一般の企業に就職する。しかし、特別支援学校や支援学級の高等部を卒業する生徒の中で、一般企業に就職できるのは正直少ない。卒業後、大半は就職ではなく、作業所とか授産所といわれる就労支援施設や自宅で一日を過ごしている。

 榊原氏たちが、この団体・法人を立ち上げたのは、生徒たちの卒業後の受け皿を用意すること。卒業生たちを「おめでとう」と送り出してあげたかったからだ。

 ある年の4月の平日、たまたま代休で榊原氏が趣味のサイクリングに出かけると、弁当らしきものが入った紙袋を持った3月に卒業したばかりの若者が道を歩いていた。最初、施設に行く途中と思い、通り過ぎたが、1時間ほどして、また同じ道を通ると、その若者が相変わらずテクテク歩いていた。

 榊原氏は放っておけず、自転車を降りて声をかけると、若者は「行く当てもなく毎日毎日、母親が作ってくれたお弁当を持って、この道を朝から夕方まで歩いている」という。そして「どうしても施設の仕事になじめない・与えられた仕事が好きになれない…、お母さんは自分が毎日、施設に行っていると思っている…」と話したという。

 このことがきっかけで、榊原氏をはじめ特別支援学校の先生方は、企業で雇ってくれないなら、自分たちで卒業生の受け皿としての職場を創ることを決意したという。

 周到な準備と懸命な努力が実り、現在では障害のある人も含め、正職員数は100人、非正規の職員数は150人、計250人の職員を雇用する他、職員の見習いともいえる利用者も常に300人を数え、奈良県内でも最大級の社会福祉法人にまで成長発展している。

 そればかりか、近年では関係者からの強い要請を受け、耕作放棄地の再生にも乗り出し、地域になくてはならない機関として高い評価を受けている。
<執筆>
法政大学大学院政策創造研究科教授、アタックスグループ顧問・坂本光司
2016年1月25日フジサンケイビジネスアイ掲載

 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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