第4回
老舗と新しい店の共存共栄
第1回から3回までは、比較的高級感漂う老舗およびその文化について述べてきた。4回目は錦市場-「京の台所」といわれ京都市民から「にしき」の愛称で親しまれている、日本最古の商店街に目を向けてみたい。
7月の京都は祇園祭の準備で街は忙しく、人があふれかえり、じっと立っていては眩暈がするような強烈な光と空気に包まれている。
目抜き通りである四条通から一本北へ入った錦小路へ向かう。暑いのには変わりないのだがアーケードがあり、刺すような日差しから解放されることで、多少なりともほっとする。
大人3人が横に並ぶともう手狭。そんな道幅3メートル強の細いアーケードが390メートル続く京の台所、「錦市場」。
錦市場は、一般的に豊臣秀吉の天下統一後からはじまり、約400年の歴史があるといわれている。しかし一方で、平安時代からすでに「市」という形で賑わっていたともいわれている。そうなると約1000年の歴史ということになろうか。
東端にある創建長保5年(1003年)の錦天満宮を起点にしてまず目にとびこむのが、見た目にも涼しげな扇子専門店。
扇子の歴史は古く、『先ず「桧扇」と呼ばれる薄い桧板を重ね綴ったものが作られ、元慶元年と記されている東寺の仏像の腕の中から発見されたものが最古の桧扇』であり、『13世紀頃には中国へ輸出され、インドを経て遠くヨーロッパに伝えられルイ王朝を華やかに彩った』(引用:京都扇子団扇商工協同組合)という日本を代表する道具なのだ。
京都の扇子専門店にもかかわらず、この店に置かれている扇子は通常のデザインと異なり、とてもモダンなデザインの品ぞろえが特徴だ。黒字に赤のシンプルな図柄、白地に墨で描かれた猫など。
そういったイマドキのものにふっと手が伸びる。
「まだまだやなぁ。アンタなんかは、ほんまモンの扇子選ぼうと思ったら、やっぱりこっちを選ばなあかん。」
そういって同行してくれた京文化に造詣の深い方が棚のイチバン上にある、お値段的にも高い扇子を手にとってくれた。
扇子の図柄にももちろん伝統があるのだ。
しかし、こうも言われた。
「京都の文化もこうやって、今の人の感覚に合わせな潰れてしまう。」
そこから少し西に進むと1560年創業の包丁、刃物専門店「有次」がある。もともと京都御所御用刀鍛冶であった藤原有次が創業した店である。1560年といえば永禄3年、桶狭間の戦いの年だ。
とにかく店内が美しい。こわいほど鋭利な刃物がずらっと並んでいるのだが、その磨き上げられた鉛色の重厚で滑らかな光は素人目にもすでに芸術品だ。
「とにかくここのおろし金ですった大根おろしはびっくりするぐらいうまいねん」と言われる。繊維を無理に崩さないので、ふんわりと味良く仕上がり、また無駄な力を入れずとも簡単に擂れるらしい。
その理由はすべて手作業でタガネを打ち込む「目立て」にあるという。普通は機械で同じ方向にトゲが並ぶのだが、有次の場合、目立ての方向が一列ずつ異なる。要は目立てが不規則に並び、結果として全方向で擂れるため軽い力でサッと擂れることになるのだ。
職人の方々が客からすぐに見えるところで、包丁を研いでいる。みんな450年の伝統を背負った「有次」の法被を着て。
京都の伝統的な鍛冶包丁の美しいフォルムに感動しながら、一方でとにかく漬物屋が多く並んでいることに驚く。ここも漬物屋、すぐ隣も漬物屋。
京都の三大漬物といえば「千枚漬け・すぐき・しば漬け」だが、調べてみると、この三大漬物、いずれもその発祥は京都で歴史は平安、鎌倉時代に遡る。そしてもともとはすべて献上品、もしくは上層階級の間で楽しまれていたものらしい。
三大漬物も良いのだが、うだるような暑さの中、なすの浅漬けが爽やかで、ついつい試食品をつまみ食いしてしまった。
そう思ったら、すぐさま視線の先には「はもやき」の文字。夏の京都といえば、やっぱり鱧。その鱧の串焼きが1本300円。これも十二分に食欲をそそられる。
そしてたたみかけるように乾物屋の棒だら、ちりめんじゃこの良い香り。
「ああ、白ご飯が欲しい。」
錦市場を歩く人はみんなそう思うに違いない。
ごはんのおかずを目で見て楽しみながら西に進むにつれ、食事のあとのデザートコーナーなのでは?と思えるほど甘味処が多くなる。
試食してみたり買ってその場でいただいたりして、お腹がいっぱいになったところでデザート。そして仕上げはお土産コーナー。商店街の西の端には女性に大人気の舞妓さんの脂取り紙や世界一の辛さを誇る七味などを売る店舗が立ち並ぶ。とにかく出来過ぎな390メートル。歩く人の財布の紐は緩みっぱなしだ。
京都の道具文化、食文化がぎゅっと詰まった錦市場。この錦市場が商店街として大型小売店に負けず未だに人気が高いのは、単に歴史があるからではない。
おもしろいのだ。イマドキのデザイン、古い伝統的な道具、シンプルに美味しそうなもの、季節感あふれる食材、京都ならではの食べ物、そして大人気の京都の新しいお土産。
歴史が全く気取っていない。京都御所御用達と庶民のおかずとイマドキの人気商品が隣合わせでひしめきあっていているので、京都の地元の人も観光客も修学旅行生も。みんな楽しめるのだ。
生き残るものというのはそういうものかも知れない。
こだわり、ほんまモンである所以のところは守りつつも、広く愛されるようにイマドキのものをうまく融合させていく。気取らず、真摯に大胆に世の中のトレンドを取り入れる。
錦市場は、そういう新旧共存共栄の在り方そのものを教えてくれる場所なのだ。
記事一覧
- 第1回 老舗だけが知っていること
- 第2回 老舗になるための秘訣
- 第3回 老舗の社是から学ぶこと
- 第4回 老舗と新しい店の共存共栄
プロフィール

株式会社アイブラン
代表取締役 政清 三枝
神戸大学法学部卒業。㈱アトラクス(現 ㈱ヒューマネージ)にて適性検査の開発及び営業を担当し、パナソニック、川崎重工業、武田薬品、クレディセゾン、宮崎県庁、神戸製鋼など、30社以上に対する採用コンサルティング及び面接コンサルティングを担当。
その後、不動産投資会社において、人事総務部長として人事制度・給与制度構築・採用業務及び営業部支援全般を担当。その後、ソフトブレーン・サービス㈱にて、セールスアンドマーケティングサービスの営業を担当。
2009年12月株式会社アイブラン設立。
メイン事業は営業組織育成コンサルティング。営業部の売り上げをあげるための、マインド、スキル、ナレッジ、仕組みの4つの視点から改善施策を提案実施。それと同時に、営業組織に必要な新人採用から育成のしくみづくりも実施。
一般財団法人プロセスマネジメント財団 パートナー企業。



























