「日本生活文化産業のブランド輸出による新たな成長」

第6回

日本生活文化産業中小企業の企業戦略と競争優位とは何なのか!?

 

中小企業の「戦略」

今回6回目コラムからは、俯瞰的な日本生活文化産業の戦略性や世界的ポジションから、個別の中小企業の企業戦略と競争優位の実践とはなんなのか!?と考えたい。

さて、中小企業の経営者の皆様は、「戦略」と聞いて、その定義をどうお答えになるでしょうか?実は、小生の専門領域の経営学においても、戦略の定義は、1つではないのです。簡単に、分類してみます。コンセプト構想プロセス型、形式的策定プロセス型、分析プロセス型の3つは、規範的で、どのように戦略が形成されるかを重視します。ビジョン創造プロセス型、認知プロセス型、創発的学習プロセス型、交渉プロセス型、集合的プロセス型、環境への反応プロセス型、変革プロセス型の7つは、企業経営の特有な側面にフォーカスし、現実に即した実践的な戦略形成を重視している。つまり、戦略策定プロセス、戦略の内容、組織構造、そして、起業家的成長や安定した成熟期などのステージや状態や組織のライフサイクルに沿って戦略を柔軟かつ企業の実態に合った実践的に決定していくのである。

多くの中小企業経営者は、上記のコンセプトや形式、分析型の戦略が、コンサルタントから高額な金額で提示され、実践的でもなく、現場にも合わないものと理解しているのではないでしょうか?その理解は正解です。つまり、戦略は、対象企業において、実行できるものでなければなりません。それ故に、小生が実施する戦略実行は、その中小企業の成長ステージや特有の側面などの実態にあった「ハンズオン型」なのです。つまり、中小企業にとって大事なのは、業界でのポジションを正確に分析したら、起業家である経営者のビジョンをベースに、組織と外部の競争環境に対し、対応させていかなくてはなりません。特に、中小企業ほど、戦略は最重要な経営課題でもあるのです。

日本のオリジナリティー

今回のコラムでは、その企業の定義が、農業、宿泊業、飲食サービス業、製造業(食料品製造業、繊維工業、家具・装備品製造業)、生活関連サービス、娯楽業、専門サービス業(デザイン・著述・芸術家)。文化産業(=クリエイティブ産業:デザイン、アニメ、ファッション、映画など)である。つまり、他の企業と比較した場合、起業家もしくはアーティスト、職人が、経営者である場合が、多いと考えられます。同時に、競合他社が模倣しやすく、価格における過当競争になりやすい業界でもあります。実際、多くの中小企業は、中国を初め輸入模倣品や大企業による大量生産による模倣と付加価値向上で、過当競争に陥っている企業は少なくないのではないでしょうか。特に、加工食品、デザイン、ファッション、飲食サービス、製造業などは、上記のような現象が数多く見受けられます。これらは、模倣と同時に、資本のある企業は、規模の経済を効かせて、低価格で中小企業が創り上げた市場に参入してきます。

同時に、日本には、日本生活文化産業において、創業100年以上の「老舗」という企業が世界と比較した場合、数多く存在します。大震災以前に、海外からもてはやされていた輸出品や観光資源の多くは、老舗のものが少なくありません。つまり、日本国内市場で競争環境を考えると競争優位が中々維持できないと理解されがちですが、海外から見た場合は、日本産、日本オリジナルというのは、海外が模倣できない文化的背景を持ったオリジナリティーによって持続的競争優位を世界に対してもっていることは明確です。

経営者のビジョン

読者の皆様はお気付きでしょうか?同じ日本生活文化産業の中小企業なのに、競争力の大きな差と同じ日本文化をベースとした事業なのに、過当競争に陥る現実との差をご理解いただけますでしょうか。前述の企業に共通して言えるのは、日本オリジナルであることは少なく、むしろ欧米の模倣をして、日本にローカライズしたものが多いです。もしくは、流行した事業の模倣や小手先の差別化が圧倒的に多いです。その結果、類似した商品やサービスが市場にあふれ、供給過剰になり、価格の下落とさらなる模倣企業の新規参入で過当競争になるパターンが、ほとんどで、資金繰りに苦労し倒産にまっしぐらという企業はすくなくありません。

中小企業の場合、戦略の基礎は、起業家である経営者の強い哲学やビジョンが極めて重要です。つまり、起業家精神が戦略そのものであることが多く、その精神がベースになって競争力のある事業を創造します。同時に、起業家精神とは、イノベーションの連続をも意味します。言葉でいうとベンチャーと表現されます。皆さんもご存知のスティーブジョブスが起業家として、創造した企業は、もちろん最初は、中小企業でしたが、PCメーカーとして過当競争に陥り、倒産間際までいき、その後、PC事業からは、ほとんど撤退し、社名もアップルコンピュータからアップルに変更し、今では、モバイルインターネットとデバイスとエンターテイメント融合させて世界で共感される文化様式、スタイルを作り出し企業を革新し続けています。

日本にも過去、ソニーの盛田さんのように、アップルのように製造業という立場で、ウォークマンという文化様式、スタイルを世界に創造した経営者がいました。

小生は、起業家支援やインキュベーションもやっておりますが、残念ながら、ご相談のほとんどは模倣です。従って、資金調達が極めて難しく、起業後、競争環境の変化で追加での資金調達をしたいとのご相談でも、安易な運転資金への資金調達のため、調達ができないことが少なくありません。今回のコラムは、個人事業主や起業家のためのものではないのでお話を戻します。

高い収益性を維持するシナリオ

冒頭に申し上げたように、日本生活文化産業の中小企業にとって重要な戦略は、時代を超える普遍的な経営者の哲学や理念を、何度も何度も自問自答し洗練させることです。同時に、日本の持つ文化概念をしっかり学習し、伝統芸能や伝統工芸などのエッセンスを温故知新の発想で如何に自社のサービスや商品に革新をおこさせるかです。このような経営活動の結果、模倣できないブランドが創出されます。改めてブランドの定義と重要性を、整理します。「ブランドとは、個々の顧客の関心領域において圧倒的な価値的優位を確立しているものであり、またその顧客の期待を常に裏切らないことを約束する製品や企業の象徴のことを指す。一方、企業にとってブランドは競争優位や長期的な収益の基礎になる重要な資産である。」と定義されます。一番重要なことは、ブランドが競争優位と継続的な収益の基盤と高い安定した収益を生み出す事業の仕組み全体の事と定義します。

つまり、安易な模倣や低価格による事業は、長期的な収益は生みません。そこで、中小企業が戦略として重要な要素は、企業の成長という定義を、売上高ではなく、その収益性に注目すべきであると考えます。戦略とは、もっと簡単に言いますと「長期に渡って競合他社より高い収益性を維持できるシナリオ」です。

従って、経営者は、戦略として、ビジョン創造プロセスを、洗練徹底し、組織において創発的学習プロセス型、競争環境への反応プロセス型、そして競合他社の模倣から模倣のできないイノベーションを起こす変革プロセスを繰り返すことが重要です。この戦略は、能動的な特性や個人的なリーダーシップ、戦略ビジョンを持つ経営者に大きく依存することが、非常に弱い点です。つまり、一人の個人の行動に全てが包括され、そのプロセスがブラックボックス化され、組織内の従業員に理解されない場合が多く発生します。そこで、重要なのが、経営者だけでなく、経営者のビジョンを具体化するための「経営陣」の充実させることの重要性です。やはり、一人、個人の能力には限界があります。同時に、成功した場合、成功神話に陶酔し、自己変革能力を失うことが大いにあります。少なくとも、経営陣としては、CEO兼COOの経営者に対し、CFO、CTO、CSOと経営企画室の機能は是非とも企業内にあるべきだと考えられます。つまり、資金調達、IT活用によるコスト削減やマーケティングの費用対効果向上、戦略策定と実行そして、必要最低限度の数値的な分析機能です。

コア人材とアウトソースの融合

同時に、表裏一体の関係で重要なことは、如何に、組織内に多様なクリエイティブ人材を積極的に登用し、寛容性を持って活用し、中間管理職の創発的な組織学習が実現できるかでも戦略上重要である。つまり、中小企業は常に人材不足であり、日本の労働市場においては、キャリアを持つ人材の流動性が低く、流動しても硬直的である。その結果、経営者のビジョンに共感共鳴する若手を如何に育成するかが重要となります。つまり、創発的に現れた戦略を如何に組織という集合体の中にパターンとして根付かせていくかが焦点である。つまり、経営者の創発的な戦略と組織学習の好循環が重要である。どんなに優れた経営者であっても一人ではなにもできません。右腕、左腕の経営陣、そして、その戦略に沿って末端まで呼応する組織と従業員を如何に、継続的に学習させるかが重要である。

以前のコラムにも紹介したが、このような戦略の実現ができていない企業ほど、新卒の離職率が高く、3年で80%以上の人が離職する。これでは、組織学習が進まず、組織は常に成功も失敗も記憶喪失状態になり、経営者の掛け声だけが空しく響き渡るだけである。

中小企業にとっての戦略の重要性と戦略のあり方を簡単にまとめたが、さらに重要なことは、組織を大きくしすぎないことだ。経営者、役員そして、組織的コアコンピタンスを維持、改善する正社員で柔軟性と機動力を持って組織を構成することが望ましい。その上で、業務のアウトソースを経営環境の変化に応じて活用することが戦略実行への変化対応力をつけることになります。今後、日本国内外での競争環境は、激しく早く変化します。大企業のように、その専門性を持った人材を中途採用できるのであれば良いのですが、中小企業には容易ではありません。

組織をコアコンピタンスに特化した小規模の集団し、アウトソーシングや専門性の高い人材の派遣、短期の契約社員などの外部人材の積極的な活用で、過剰な固定費も回避できます。つまり、中小企業にとって、事務所経費や人件費は、大きな固定費となり環境変化に大きな重石になることが少なくありません。そのたびに、ネガティブなリストラを繰り返し、組織や従業員のモチベーションを下げるよりは、割り切ってコア人材とアウトソースの融合をさせたほうが、安定した独自の企業文化も熟成しやすくなります。リスク管理の理論において、企業文化があり、安定しているほうが、危機管理能力は高いという研究結果も出ています。

「マーケティング」と「ひたすら売る」

これからは、中小企業に最適な戦略とは何かを整理したい。その戦略構成要素を、整理すると、重要な要素は、ブランド創出、マーケティング、財務、組織である。これらの構成要素は、中小企業にとっては、非常に長期的な取り組みと経営陣による強いリーダーシップが必要です

なぜならば、中小企業の多くは、短期的な売上や安易な黒字決算にこだわることにより、上記の要素に対して、ブランドの模倣、ひたすら売る、経理指向、組織人材育成への投資をしないことが多く見受けられます。その結果、黒字倒産を間接的に引き起こすことに繋がります。本質的な戦略性と上記現実の比較を、さらに詳しくしていきます。ブランドというのは、その認知も含めると長期的な投資スキームになるので、模倣から入ることが少なくありません。「マーケティング」と「ひたすら売る」の違いですが、マーケティングとは、「中長期に渡り売れる仕組みとブランドへのロイヤリティー強化」の機能ですが、「売る」ことに短期的に専念する余り、ブランドの模倣と連動し、低価格による薄利多売でひたすら売るという事態になり、収益性においても悪循環を発生させます。また、「財務」に対して「経理指向」の違いですが、企業の収益をどのように使うかという考え方の違いです。もちろん、黒字決算を追究することは重要な要素ですが、当期利益が多く獲得でき、余剰資金が発生した場合、節税を目的として、戦略上意味のない費用の計上を多くし、課税対象利益を減らすことが多く見られます。財務とは、英語で言えば、ファイナンスであり、経理は、アカウンティングとなり、全く違う概念です。つまり、企業の将来に対する投資活動である。つまり、利益が出た場合、安易な物質的な資産の購入や交際費などの費用で計上するのではなく、「人材の育成」「マーケティングインフラ」「ブランド創出」に対する効果的な投資の費用に是非、使っていただきたいのである。毎年、上記の構成要素に、コツコツ投資を継続することにより、他社が模倣できない組織、マーケティング、ブランドが徐々に出来上がり、競争力が向上しています。従業員にとっても、これらに投資することは、「経営者の浪費」と理解される費用より、企業への共感共鳴、忠誠心の向上、モチベーションアップに繋がります。つまり、企業が環境変化や競争環境の変化が起きたとき、収益性は通常悪化します。その時に、事業そのものを迅速に変化、改善、革新する大きな力になります。また、適切なブランドとマーケティングに投資をしておけば、過当競争に陥った場合でも、販売価格の下落幅が、小さくて済みます。

中小企業の戦略比較

今回のコラムのテーマである中小企業の戦略と競争優位の実践を「典型的な中小企業の戦略状況」と「本質的な戦略のある中小企業」の比較を箇条書きで比較一覧として以下まとめます。

【典型的な中小企業の戦略状況】

  1. ブームや流行による市場拡大に模倣したブランドと低価格による競争力構築
  2. 戦略の欠如
  3. 節税対策を主軸にした経理主義による刹那的な収益の浪費
  4. 売ることだけに専念し、過当競争を自ら引き起こし悪循環体質
  5. 人材はとにかく安く使い倒す
  6. ブランドのオリジナル性欠如と安易な模倣

【本質的な戦略のある中小企業】

  1. 起業家である経営者の哲学理念と分析による付加価値の高い競争力の構築
  2. 分析と自社のステージにあった戦略の策定と実行できる経営陣と組織の構築
  3. 財務の発想による経営環境変化とブランド創出への投資
  4. マーケティング体制への投資と改善によるブランドロイヤリティ強化
  5. 人材育成へ投資
  6. オリジナルブランド創出への努力と継続投資

上記をご覧いただき戦略の有無の違いを具体的にご理解いただければ幸いです。戦略とは、「長期に渡って競合他社より高い収益性を維持できるシナリオ」とお話しましたが、その最低条件として「本質的な戦略のある中小企業」を強く意識して、コツコツしっかり戦略に沿った先行投資を継続できるかが実務的には重要である。もっとわかりやすく言えば、「ありとキリギリス」の童話と中小企業経営も同じである。

経営戦略とは、競争に勝ち同業他社より高い収益性を実現することであり、その集大成が、ゆるぎない「ブランドの創出」なのである。同時に、日本国内で、ブランドを創出できることが、初めて海外進出や海外への販路拡大の基礎となるのである。海外に進出する際に、ブランドが有ると無いとでは、事業開発のスピードや投資回収のスピード、収益性において、格段の違いがでます。なぜならば、ブランドが出来上がることは、足腰の強い経営能力、つまり、組織力、マーケティング、財務力による持続的競争優位が実現できる企業であることと表裏一体であるからである。

国内市場で切磋琢磨し、海外、世界に通用するブランドを創出し、日本生活文化産業の輸出事業の拡大を成し遂げようではありませんか。

 
 

株式会社glow
代表取締役
植木 宏 / Hiroshi Ueki

1971年生まれ
慶応義塾大学大学院 経営管理研究科 修士課程(MBA)卒業
2009年、株式会社glow 設立 代表取締役就任
大学卒業後、総合商社にて農産物・食品の輸出入事業に従事後、大学院復学し、MBA取得後は、多様な業態へのモバイルインターネットによるネット事業開発やネットベンチャーの経営に従事。

  • 財団法人沖縄県産業振興公社「平成17年度沖縄産学官共同研究推進事業」事業化推進リーダー
  • 2005年度金融特区新ビジネス創出支援事業・電子マネー研究会 研究員
  • 国立大学法人 琉球大学工学部 情報工学科 産業社会学原論II担当 非常勤講師

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