海外進出企業の国際税務入門

第8回

移転価格調査とは?

山中 一郎 2017年12月22日
 

独立して会計事務所を経営している知り合いの税理士・会計士が、娘さんにこんなことを言われたそうです。「お父さんの後は継がない。だって、将来、なくなる仕事なのでしょう?」。

 

イギリスのAI(人口知能)研究者が2014年に出した論文では、90%の確率で10年後になくなる仕事に、「簿記、会計、監査の事務員」と「税務申告代行者」があげられています。しかし、私は、税理士・会計士の仕事が将来なくなるとは思いません。確かに、記帳代行等などの単純作業はAIが担えるかもしれません。法律の解釈、適用もある程度はできるでしょう。けれども、その前提として、お客様に寄り添い、相談に乗り、事実認定やアドバイスをするという仕事は決してなくなるものではないと確信するからです。

 

本ブログのテーマである移転価格調査を行う国税当局も税務申告作業などの電子化を推進しています。移転価格文書である、国別報告事項やマスターファイルも、電子申告することが求められています。さて、国税当局の税務調査官の仕事は、10年後にどの程度、AIにとって替わられるのでしょうか?今から楽しみです。

 

移転価格調査は中小企業もターゲット

移転価格調査のベースとなる移転価格税制は、「企業とその海外子会社等との取引価格を、現実の取引価格ではなく、独立企業間価格(独立した企業間において通常設定される価格)を用いて、課税所得を計算する制度」です。最近では、中小企業も海外進出が盛んになり、海外子会社との取引も増え、国税当局の移転価格調査の対象となることが少なくありません。国税通則法(国税に関する一般法)が改正され一般の法人税調査の範囲に移転価格調査が加わったこと、大企業の移転価格対策が一巡したことなどが、その増加を後押ししています。

 

移転価格調査とは?

企業とその海外子会社等との取引価格である移転価格は、国税当局の税務調査の対象となります。この調査の期間は、1~2年の長期に及ぶのが通常です。これまでは、一般の法人税調査とは別に実施されてきましたが、国税通則法の改正で、原則として、一般の法人税調査において行われることになりました。

 

移転価格調査ではどのような資料提出が求められるか?

移転価格調査では、通常、膨大な資料が要求されます。主たるものは、移転価格に関する資料で、海外の子会社との取引内容を記載した書類、使用した独立企業間価格を算定するための書類、その他、移転価格に関する説明資料等があげられます。

 

移転価格文書化制度とは?

2016年度(平成28年度)の税制改正では、「移転価格文書化制度」が新しく整備され、税務調査において税務調査官が指定する期日(取引規模によって、45日以内、または、60日以内)までに、一定の移転価格に関する説明資料を提出しない場合、税務調査官は、推定課税、または、同業者調査を行うことができるようになりました。推定課税とは、税務調査において、独自に入手した外部情報により算定した結果をあるべき課税金額とみなして更正するもの、同業者調査とは、税務調査官が調査対象企業の同業者に質問し、または、帳簿書類を検査することをいいます。

 

移転価格の調査対象となりやすい企業は?

2017年(平成29年)6月に国税庁が公表した「移転価格ガイドブック(https://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2016/kakaku_guide/pdf/ikkatsu.pdf)」では、確定申告書の情報をはじめ、あらゆる資料および情報を収集・分析・検討して移転価格税制上の問題の有無を確認し、海外への所得移転が想定される事案等、移転価格調査の調査必要度が高い事案について、重点的に移転価格調査を実施するとしています。

 

また、調査必要度の判定は、税務申告状況、過去の調査情報、マスコミやその他の公開情報など、様々な情報を活用し、たとえば、以下のような観点から行うとしています。その際、企業と海外子会社等の機能・リスクも勘案しつつ、多角的に検討が行われるとされています。

 

・企業が赤字または低い利益水準となっていないか

・海外子会社等の利益水準が高くなっていないか

・海外子会社等への機能・リスクの移転などの取引形態を変更している一方、それに伴い適切な対価を授受していないことや、軽課税国の海外子会社等に多額の利益剰余金が存在すること等により、海外子会社等に所得が移転していると想定されないか

・海外子会社等に所得を移転させるタックスプランニングが想定されないか

・過去に移転価格課税を受けているにもかかわらず、当事者の利益水準等に変化が見られないなどコンプライアンスに問題が想定されないか

・企業と複数の海外子会社等との間で、連続した取引(連鎖取引)を行い、利益配分状況や海外関連者の機能などが税務申告書上では解明できず、確認を要さないか

 

今すぐ、移転価格文書の作成を

もしも貴社の海外子会社との取引が50億円(無形資産は3億円)に達しているのであれば、移転価格文書の一つである「ローカルファイル」の作成にとりかかるべきです。税法改正によって、3月決算の会社であれば、その申告期限である5月末か、申告書の提出を延長している場合は6月までに仕上げる必要があります。取引が50億円に達していなくても、移転価格調査でローカルファイルの提出を求められた場合は、最長でも60日間以内にそれを提出することが求められます。

 

移転価格調査をいつ受けても良いように、税務調査官に対して説得力のある移転価格文書を準備しておくことが必要です。

 

以上

 
 

プロフィール

朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎


朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。


国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等 の税務・コンサルティングサービスを行っている。


主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「図解 移転価格税制のしくみ 日本の実務と主要9か国の概要」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数

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