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ドラッカーから起業を学ぶ

第12回

競合がないのは良いことか

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「一つお聞きして良いでしょうか?」

「なんなりと。」

「私、独立してコンサルタントになるに当たって、信念があったんです。」

「ほう、何でしょう?」

「私は、今までにない価値を提供したい、ということです。欧米では知られているけれど、日本で知られていない知識やノウハウといったものが沢山あります。こういうものを、日本の企業や経営者にご紹介したいのです。」

「それは素晴らしい志ですね。」

「その考え方を取り入れたら、企業内で経営者と従業員がいがみ合うことも少なくなると思うのです。私にとっても競合先がありません。一石二鳥です。」

「そういう、深慮遠謀もおありだったんですね。」

「そうなんです。」

「それで、どういうご相談なのですか?」

「そうやって、ブルーオーシャンの構図を描いていたのですが、私の話を聞いてくれる人は全くといって、いないのです。どうすれば良いのでしょうか?」

「ドラッカーは、何といっていると思いますか?」

「えっ、ドラッカーが、私の状況を見通して、何か予言してくれているのですか?」

「いえいえ、ドラッカーは予言はしません。しかし、将来を知るための考え方は示しています。そういうコメントに耳を傾けるのは如何ですかと申しているのです。」

「ドラッカーは、何と言っているのですか?」


問題のポイントはどこにあるのか?

「あなたは、今まで日本にない考え方でコンサルティングを行おうとしておられます。お話しの内容からすると、それによって企業内の経営者と従業員がうまく連携できるようになるという素晴らしい提案のように思えるのですが、実際はお客さまは理解してくれません。その理由はどこにあると思いますか?」

「私の提案がイノベーティブ過ぎるからだと思います。だから、顧客に理解してもらうのは難しいのだと思います。」

「あなたが行おうとするコンサルティングは、とても難解な理論を使うのですか?他の誰にも実施できないようなノウハウを駆使するのでしょうか?」

「実際は、そうではないですね。私が行うコンサルティングは、一つ一つを見れば企業分析やビジョン・経営戦略の策定、全社ミーティングの開催とファシリテーションなど、多くのコンサルタントが行っていることと、あまり違いはないと思います。ただ、私の場合は、新しい考え方を導入して全体に一本の筋を通すことにより、今までなかったような大きな効果を目指そうとするものです。」

「つまり、同業他社とほとんど同じことをしながらも、自分のサービスは他の誰にも提供できないものだと位置付けているわけですね。そして、それを理解してくれるお客さまだけ、あなたと取引して下さいと申し出ているわけです。」

「そうです。それは、悪い戦略なのですか?」

「いいえ、大変結構な戦略だと思いますよ。問題なのは、事業規模です。」

「事業規模ですって?!」


不適切な規模

「ドラッカーは、『不適切な規模とは、ニッチのあり得ないような規模である』と言っています。この言葉を聞いて、どのようにお感じになりますか?」

「私がまさに、やろうとしていたことなのかも知れません。自分だけがピタリと収まることができるようなニッチを狙ったは良いけれど、今のところ市場が開拓できず、自分を支えられないという状況です。」

「そう言えるかもしれませんね。ならば、どうすることができますか?」

「市場を広げていく訳ですね。でも、言葉としては分かりますが、具体的には、どうすれば良いのでしょうか?」

「先ほどあなたのビジネスは、企業分析やビジョン・経営戦略の策定、ミーティング開催やファシリテーションなどをワンパッケージで行うことだと仰いました。そういうサービスを求めている経営者はいると思いますが。」

「なるほど。しかし、そのアプローチでは、同業他社との競争が激しくなってしまうのではないでしょうか?せっかくブルーオーシャンを狙った意味がなくなります。」


顧客の認知に訴える

「ここでちょっと、喩え話で考えてみませんか?」

「了解しました。」

「あなたが、あるゲームを思いついたとしましょう。他にない、世界で一つだけのゲームです。それを売っていかなければなりません。どうしますか?」

「他にないゲームを探している人たちを捜さなければなりませんが、それはかなり難しそうですね。どこにいるのか、分かりません。」

「一方で、仲間との時間をどうやって過ごそうかと考えている人たちは、どうでしょう?そういう人たちなら、沢山いると思いませんか?」

「そういう人たちがどこにいるか、どういう媒体で娯楽を探しているか、分かる気がしますね。」

「そうなんです。『世界に他にないゲーム』ではお客さまに認知してもらうことはできませんが、『仲間と楽しい時間を過ごせるゲーム』ならお客さまに認知してもらうことができます。」

「そうすれば、興味を持ってもらえるということですね。」

「差別化は、それから考えれば良いわけです。」

「分かりました。私の場合も、お客さまに認知してもらえる少し大きな市場をターゲットにするわけですね。その上でご縁を頂いたお客さまと向き合い、お客様の要望に応える方法の一つとして新しいサービスを提案し、提供していく。そうすれば私の斬新なサービスも、浸透させていけるような気がします。」

「それは良い方法ですね。試してごらんになるのは如何でしょう。」

 

プロフィール

StrateCutions (ストラテキューションズ)
落藤 伸夫


(StrateCutions代表)ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。お客さま、社会、そして自分自身の「三方良し」の構図を作り上げることにより起業の成功を目指すドラッカーの知恵を、お楽しみ下さい!

<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』


Webサイト:StrateCutions

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