知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.4

第4回

キャラクターの生地を商用利用したら著作権侵害なの!?~消尽にまつわる話

堀越 総明 2016年3月18日
 

有名キャラクターの生地を転売したら著作権侵害??


東京の下町で縫製工場A社を経営するB社長は、昨年、大手飲食チェーンCフーズのノベルティグッズの受注に成功し、それ以降、連日フル回転で工場を稼働させています。
D部長 「社長、数年前の青色吐息の頃がウソのようですなー。これも社長のトップ営業のおかげです。」
B社長 「ウチの技術力を買ってくれたこともあるけど、ちょうどCフーズが海外生産での事故を頻発させ、リスクを回避しようと国内工場との取引を促進させていたからな。運も良かったんだよ。」
D部長 「わが社も合理化に次ぐ合理化で、コストもそれほど見劣りしませんしね!」

Cフーズのこの春のキャンペーンは、子供たちに大人気の「イノベーションマン」がイメージキャラクターです。Cフーズの指示で、A社は、イノベーションマンの生地を生地メーカーから直接調達し、その生地でミニトートバッグを生産し、Cフーズに全品納品しています。すべての納品が完了してホッとするB社長でしたが、ある日、工場の生地倉庫で、未使用のままのイノベーションマンの生地を大量に発見しました。
B社長 「D部長、このイノベーションマンの生地は何だ?」
D部長 「万が一足りなくなってはと、生地は少し多めに発注したんですよ。」
B社長 「それにしてももったいないなー。他の会社に安く転売できないか?」
D部長 「転売ですか!?」
B社長 「Cフーズとの契約上は問題ないだろ?それにこの生地はウチが生地メーカーから買い取ってるんだぜ。もし転売できないんだったら、公正取引に引っかかるだろ。」
D部長 「でも、こうしたキャラクターものは著作権っていう問題もあるんじゃないですか?」

いったん適法に譲渡されると著作権(譲渡権)は消尽します


D部長に著作権の問題を指摘されて少し心配になったB社長は、著作権に詳しい行政書士のH氏に相談しました。
H氏  「イノベーションマンの生地は転売しても大丈夫ですよ。確かに生地にはイノベーションマンのイラストが描かれているので、原則としてイノベーションマンの著作権者の承諾なしではその生地の販売をすることができません。でも、その生地は、生地メーカーが正式にライセンスを取って生産していて、そして生地メーカーから御社に対して、いったん適法に譲渡されています。その場合は、その後の譲渡には著作権(譲渡権)は消尽し、及ばないということになっているのです。」
B社長 「消尽???」
H氏  「少し難しい言葉ですが、もし適法な譲渡の後にも著作権(譲渡権)が消尽しないで、その後もその著作物を他人に自由に販売できないとしたら、どうでしょう?著作権者の承諾なしでは、読まなくなった本を古本屋さんに売ることも、聴かなくなったCDを中古CD屋さんに売ることもできなくなります。本やCDだけでなく、キティちゃんやアンパンマンのイラストが描かれた子供服をリサイクルショップに売ることもできなくなります。また、イノベーションマンの著作権者は、生地を最初に生産し販売した生地メーカーからライセンス料を受け取っていますので、同じ商品の流通過程で何度もライセンス料をもらえるようにするのは、著作権者をちょっと保護しすぎることになるというのも著作権(譲渡権)を消尽させる理由の1つなのですよ。」

B社長は、H氏の話を聞いて、すぐにD部長にイノベーションマンの生地を転売するように指示しました。D部長は同業者に片っ端から連絡を取りましたが、しかし、なかなか生地のままで買ってくれる業者さんは見つかりません。すると、ある業者さんから、「ウチの取引先の雑貨屋E社が、イノベーションマンの小物雑貨なら買い取るって言ってるよ。」と言われました。D部長は、「この生地のイラストの著作権(譲渡権)は消尽しているし。。。」と思い、早速工場に、この生地を使ったイノベーションマンの弁当袋、靴袋、ペンケースなどを生産させ、E社に納品しました。生地倉庫の在庫もすっかり片付き、B社長もご機嫌です。



しかし、その喜びも束の間、B社長のもとに1通の内容証明郵便が送られてきました。
B社長 「けっ、けっ、権利侵害???何言ってるんだ!著作権(譲渡権)は消尽しているんだぞ!!」

有名キャラクターの生地を使って、勝手に新しい商品を生産・販売しても大丈夫??


B社長が行政書士のH氏からアドバイスを受けた通り、確かに、A社がイノベーションマンの生地を転売する行為は、著作権(譲渡権)が消尽しているため、違法行為とはいえないでしょう。しかし、A社は、生地をそのまま転売せずに、その生地を使って生産した、イノベーションマンの弁当袋などを販売しました。この場合は、A社の行為は、違法行為になるのでしょうか?

まずは、著作権のうちの譲渡権侵害について見てみましょう。「著作物」とは、「思想又は感情を表現したもの」ですので、著作権で保護される対象は、生地や弁当袋などではなく、イノベーションマンのイラストそのものになります。A社は、生地から弁当袋などに形を変えて、イノベーションマンのイラストが描かれた商品を販売しましたが、その生地に描かれているイノベーションマンのイラストの譲渡権は、すでに消尽しているため、いったん消尽した譲渡権が、生地が弁当袋などに形を変えたことで復活するということは考えづらいでしょう。したがって、A社の行為は、譲渡権侵害にはなりそうにありません。

次に、著作権のうちの複製権侵害について見てみましょう。複製とは、著作物を「有形的に再製」することです。ここで、A社は、新しく弁当袋などを生産しているため、一見するとイノベーションマンのイラストの複製権侵害のように感じますが、新しく生産したのは弁当袋などの商品であり、イノベーションマンのイラストそのものは、もとの生地をそのまま使っているため、複製は一切していないことになります。ということで、A社の行為は、複製権侵害にも該当せず、著作権侵害の問題はないものと思われます。

著作権侵害にならなくても商標権侵害になることが考えられます!


しかし、著作権侵害にあたらなければ権利侵害にならないのかといえばそうではありません。有名なキャラクターの多くは商標登録している場合が一般的で、もしイノベーションマンのイラストが弁当袋などを指定商品として商標登録されていれば、商標権侵害の問題が発生する可能性があります。商標権は、商標権者が独占排他的に商標を商品に付して生産や販売ができる権利です。この場合、A社は、自社製品である弁当袋などの商品に、商標であるイノベーションマンのイラストを勝手に付して生産、販売したことになりますので、A社の行為は商標権侵害となるおそれがあります。また、もしイノベーションマンのイラストが商標登録されていない場合でも、A社の商品が正規品と混同されるようなときは、不正競争防止法上の問題が生じかねません。

以上は、A社のような企業のみならず、一般の個人の方々にもあてはまることです。お店でキャラクターの生地を買うと、「商用利用を禁止します」という注意書きを目にすることがあるでしょう。著作権(譲渡権)の消尽は、契約で覆すことができませんので、この注意書きを無視して、商品を作って販売しても、おそらく著作権侵害には問われないことと思いますが、先に述べたように、商標権侵害、不正競争防止法違反の問題は残りますので、十分に注意は必要です。もちろん、商用利用ではなく、ご自分のお子さんが使うために、個人的に弁当袋を作るようなケースは、著作権、商標権、不正競争防止法の問題は一切ありませんので、ご安心ください。

さて、再びH氏に相談したB社長ですが、イノベーションマンの弁当袋などの生産、販売が商標権侵害であることを知り、慌てて商品をE社から回収しました。A社は、イノベーションマンの商標権者に深く詫びた上、あらためて商標権のライセンスを受け、正規品としてE社に卸して販売してもらいました。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。
 
 
 このコラム筆者のセミナーイベント、申し込み受付中! ビジネス著作権検定 上級 合格講座  ビジネスに必要な著作権のスキルがしっかり身につく!
同時に国家資格「知的財産管理技能士」1級及び2級の受験資格が得られる!

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/


○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
http://www.bon-gout-office.jp/

コラム 知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.4

同じカテゴリのコラム

コラム検索
新聞社が教える SPECIAL CONTENTS
プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。