知恵の経営

第98回

理不尽発注断り独立企業に

アタックスグループ 2016年12月28日
 
 中里スプリング製作所(群馬県高崎市)という中小企業がある。社員数はわずか20人、主事業は各種バネの開発・製造である。こういうと、全国どこにでもある町のバネ工場かと思われる読者もいるかもしれないが、その実態は、まさに小さな独立企業「スモールジャイアント」で傾注に値する。

 その特長の一つは、社員数20人ながら、なんと7000種類以上もの多種多様なバネを生産する多品種少量生産型工場である点だ。しかも、その大半は自社で設計開発したオリジナルの企画商品や特注バネ。社員数が20人ということを考えると、想像を絶する精鋭集団・開発集団である。

 第2の特長は取引先の多さで、現在の取引先は1874社。より驚くことはその取引先は全国に及び、取引企業のない都道府県は存在しないという。

 第3の特長は経営姿勢。その最たる例は取引先を決めるとき有名企業か・無名企業か、もうかるか・もうからないのか、ではなく「同社の社員がその企業や担当者を好きか・嫌いか…」で決めている点である。

 このため有名ブランド企業からの、“おいしい仕事”であっても断ることがよくあるという。全国各地の多くのバネ工場は、低単価発注や、大幅なコストダウンなど理不尽な取引を強要する企業との取引に、心身ともに疲れ果てている中、何ともうらやましい中小企業である。

 とはいえ、もともとこうした独立企業ではなかった。それどころか、上述した多くの町のバネ工場同様、下請けの悲哀を余儀なくされていた。

 こうしたこともあり、2代目である中里良一社長も父親が創業した会社を継ぐ意思は全くなく、大学卒業後は都内のある商社に就職している。中里社長が中里スプリングに入社したきっかけは、第1次オイルショック後、それまで弱音を吐いたことのない父親から、「今度こそだめかもしれない…」と寂しそうな声で、暗に助けを求める電話があったからという。

 入社はしたものの、暗い・ぎすぎす感のはびこる・夢と希望のない職場。改革なくして将来はないと思った中里社長は、十数人のスタッフと議論を重ね、全員参加の「夢会議」を立ち上げた。そして、「楽しい・夢のある職場を創るため、10年がかりで理不尽な取引を強要する企業とは取引をしなくても良い企業を創ろう…」とビジョン・夢の共有化を図った。

 一方、当面の仕事の確保も重要で、商社マン時代に培った自慢の営業力をいかし、仕事を求め全国に行脚をした。

 こうした努力が実り、ゆっくりではあるが着実に、取引先の拡大と分散はもとより、オリジナルの規格バネ開発に成功したのである。

 こうした企業の存在を見ると、中小企業の最大の問題は、規模や業種ではなく、経営者の経営の考え方・進め方だといわざるを得ない。
<執筆>
法政大学大学院政策創造研究科教授、アタックスグループ顧問・坂本光司
2016年12月28日フジサンケイビジネスアイ掲載

 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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