知恵の経営

第7回

既存顧客を新たな「池」に

アタックスグループ 2015年2月18日
 

 中小企業は独自の「池(市場)」を見つけ出し、自らがその「池のクジラ」になることで高収益を生み出せるという考え方を、昨年9月から紹介している。今回は家電業界で大手量販店が熾烈(しれつ)な安売り競争をする中、「高く売っても、お客さまが喜んでお金を払ってくれる」という業界では非常識なやり方で成功した、「でんかのヤマグチ」(東京都町田市)の池クジラを見ていきたい。

 同社は1965年、山口勉社長が23歳のときに町田市で、街の電器屋さんとして創業した。96~98年にかけて市内に6店の大手量販店が参入し、ヤマグチは立ちどころに危機的状況に陥った。3年近く眠れぬ夜を過ごした山口社長は、唯一生き残る道として、町田周辺地域の高齢者向けに「御用聞きサービス」の実施を決意した。

 顧客のターゲットを家電の「買い物弱者」とされる地域の高齢者に絞り、顧客の数を従来の3分の1となる1万1000世帯に削減した。

 山口社長は、96年から10年間で、毎年粗利益率を25%から35%まで、1%ずつ上げることを決めた。その上で、顧客に向けて「本当に困ったときに気軽に頼める」存在になる「御用聞きサービス」を始めた。留守中に新聞や手紙を預かったり、花の水やりをしたり、社員が泊まってあげたりまでした。また、雨戸の建て付けや家具の配置換えや修理、さらに入院中に飼い犬の世話をしたりと、まさに「向こう三軒両隣」の助け合いを社員たちが行ってきた。

 その結果、わずか7年で粗利益率を35%に引き上げることに成功し、驚いたことに、高いものほどヤマグチで買う顧客が増えたのだ。

 山口社長は「大手量販店の進出がなければ、粗利を上げる方針に転換できず、つぶれていたかもしれない。大手量販店が進出してくれたおかげで、“高売り”を始めることができた」と語っている。

 同社の顧客は「他店より高くても、ヤマグチは困ったときにすぐにトンデきてくれる。だからヤマグチでお世話になりたい」と同社をなぜ支持するかを教えてくれる。

 ヤマグチの「池」とは、(1)地域を町田地区に限定(2)「買い物弱者」の高齢者層に集中(3)低価格にこだわらない顧客が対象(4)顧客数を3分の1に削減(5)きめ細かな「御用聞きサービス」の徹底-という5つの非常識を重ね合わせた市場のことだった。

 一般的に、縮小し続ける国内市場で生き残りをかけて戦う道は、他社から顧客を取り込むか、新事業に参入するか、海外市場へ進出するかしかないと考えがちである。その中でヤマグチは、既存顧客へのきめ細かいサービスと日常の綿密なコミュニケーションから、既存顧客が持つ「潜在ニーズ」という「池(市場)」を掘り起こし、自社商品を買い続けてもらう道があると教えてくれているのではないだろうか。


<執筆>

アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明


2015年2月18日「フジサンケイビジネスアイ」掲載

 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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