知恵の経営

第17回

守成は創業よりも難し

アタックスグループ 2015年4月29日
 

 顧問先の引抜鋼管メーカー、旭鋼管工業(埼玉県草加市)の創立50周年記念の会に参加した。現社長は創業者の父親の苦難とは別の、多くの課題を乗り越えてきた。

 先代は「パイプの引き抜き加工・問屋をやりたい」と大手製造業を50年前に退職し、創業した。会の席上、社長は「信用がないため仕入れ先からは製品を卸してもらえず、販売先の倒産で代金が回収できなかった。家に差し押さえの赤紙が貼られたこともあった」と当時を振り返ったが、先代は苦難を乗り越え事業を拡大した。

 社長は大学卒業後、10年余り地元金融機関に勤務し、将来を嘱望された金融マンだった。20年ほど前、先代が体調を崩し母親の懇願もあって入社した。先代から実情を知るために取締役会はじめ、さまざまな会議に顔を出すことを指示された。1996年には先代の長年の夢だった最新の工場建設も着手。30億円もの借入金を、社長はどう返済するかで悩んだ。

 2001年、先代から経営をバトンタッチされた。経験豊富な古参役員もいる中で、経営のかじ取りに大変な苦労をする。就任時は「後継者にならなければどんなに楽だったか」とさえ思った。「守成は創業よりも難し」だ。

 そんなころ尊敬している先輩経営者から「愚痴が多すぎる。うまく行かないのをすべてまわりのせいにしている」とアドバイスされ、社長は眼をさまされた。一番の理由は自分の考え方にある。この一言で迷いが吹っ切れ、改革に着手した。

 社員に将来の姿を示すために理念を見直し「技術と挑戦と信頼」を経営の根幹に据えた。06年には幹部社員を巻き込んで「第二創業」の思いを込め、初の中期経営計画も策定。自動車メーカーの海外生産、部品の現地調達が進む中で、同社も中国・広州市に現地法人を設立した。記念の会で3代目総経理から「ようやく利益が出た」と報告を受けた。単身赴任4年目だが、こうした社員が随所にいるのが強みだろう。

 社長の社員に発するビジョンは「アジアナンバーワンの引抜鋼管メーカーになる」。記念の会の最後に幹部10人が次の50年を目指してビジョンを実現したいと抱負を語った。

 社長は、人財育成のプロだと思う。社員の素質・能力を冷静に分析したうえで成長を後押しするポストを用意する。それが経営者の仕事という。経営課題の発見力に優れ、従業員は課題を解決することで自信をつける。会社は成長し、社長は次なる課題を現場に投げる-。こんな好循環ができ上がっている。

 筆者の持論は「良き経営者は良き教育者である」。同社の社長はこの持論にピッタリだ。最近は、社長自身にも人財育成の観点から業界外の中小企業経営者を対象に講演依頼も多いようだ。環境が激変する、見通しのきかない時代だからこそ、中小企業経営者は常に現状に満足せず課題を発見し、その解決のプロセスで人財育成に知恵を絞り、実践すべきである。

<執筆>

アタックスグループ主席コンサルタント・丸山弘昭

2015年4月29日「フジサンケイビジネスアイ」掲載

 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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