知恵の経営

第157回

補聴器の巡回訪問で成功

アタックスグループ 2018年4月23日
 
独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となって、高収益を獲得・維持している企業を紹介している。今回は医療機器、補聴器、聴能訓練器などの販売、修理を行う琉球補聴器(那覇市)の池クジラぶりを見ていきたい。

同社は1987年、森山賢社長の父、勝也氏が設立した。家電や音響機器の販売会社に就職し、補聴器を担当したが、突然の父の死で事業を引き継いだ。市場が小さく、客は来ないし、取引先にあいさつに行っても相手にしてもらえず、後悔する日々。それでも難聴に苦しむ人たちを目の当たりにして、いつか「この人たちを救いたい」という使命感が生まれた。

補聴器は国内5600店で扱われているが、眼鏡との併売が多い。沖縄県内でも補聴器専業は琉球補聴器を含め、わずか2社だけ。創業から補聴器専業で黒字を続け、現在は県内7店舗で、約70%のシェアを持つ。

同社が高く評価されているのは同業では類を見ない巡回サービスの成功にある。補聴器専業店はパパママ・ストアが多く待ちの体制から脱却できない。また眼鏡との併売では顧客への手厚いフォローが難しい。利用者の多くは高齢でめったに店を訪れない。そこで社員を積極採用し、顧客を一軒一軒訪問して手厚いサービスを提供した。社員1人当たり、毎日15~30件の顧客を訪問、聴覚や環境、好みに合わせた補聴器のフィッティング・修理などを行う。

加えて森山社長が社員と使命感の共有に成功したことが大きい。森山社長の父は家庭を顧みずに猛烈に働き、少年時代は大いに嫌っていた。しかし母が57歳で他界し、母の愛したものを自分も愛そうと考えた。そこで母が愛していたのは父だったことに気づき、自然と父の会社に入社した。

当初はなかなか素直になれず「会社に入ってやった」という気持ちが常にあり、それが社長就任から4年目の全社員研修で大きな問題になる。社員全員から無記名で「社長には愛情がない」「社長のリーダーシップが弱い」「社長は本音で語り合える社風を作っていない」「相談役(創業者)と社長では思いに差がある」と激しくたたかれた。森山社長は膝をつき大粒の涙をこぼしながら謝った。

森山社長は「批判は自分に変わってほしいという期待の裏返しだ」ということに気づき、負の気持ちを感謝に変えていった。これを機に社員を大切にしようという気持ちが芽生え、父が作った理念を基に、2年がかりで社員とともに社訓を作った。毎朝約1時間朝礼を行い、社訓を社員たちと共有し、一体感を高めている。

琉球補聴器は、顧客への手厚い巡回サービスを実行する社員の使命感で沖縄の顧客から高く評価されている。業界には存在しなかった「沖縄で唯一、手厚い巡回サービスを行う補聴器販売業」の池クジラになった。

<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明

2018年4月23日フジサンケイビジネスアイ掲載
 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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