知恵の経営

第122回

酒造りの「見える化」進める

アタックスグループ 2017年7月10日
 
独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となって高収益を維持している中堅企業を紹介している。今回は、純米大吟醸酒の「獺祭(だっさい)」を製造している旭酒造(山口県岩国市)の池クジラぶりを見ていく。

同社は1770年の創業で、会長の桜井博志氏は1976年の入社。清酒消費量は75年をピークに、2014年には3分の1にまで減った。縮小する市場に危機感を抱き、酒造りの方向性や経営をめぐって先代の父親と対立して退社。しかし父の急逝で1984年に戻り、社長に就いた。酔えばいい、売れればいい酒ではなく「おいしい酒・楽しむ酒」を造る酒蔵を志し、2つのことに取り組んだ。

一つが「獺祭」にブランドを統一し、原料を兵庫県産山田錦に限定した純米大吟醸酒のみに商品を特化すること、もう一つが製造方法の改革である。

桜井氏が家業に戻った当時、岩国市内で売上高4番目の一級酒や二級酒を地元向けに造る小さな酒蔵だった。当然展望など描けるはずもない。そこで本当においしい楽しむ酒に一点集中し、東京、そして世界に向けた新市場を開拓しようと純米大吟醸酒の開発を決意した。白米、米麹、水だけを原料とし、白米の精米歩合が50%以下の純米大吟醸酒の醸造は、高度な技術や設備が必要で大きなチャレンジだった。

最も重要な原料の米は、最上級の特Aランクに指定された兵庫県産山田錦だけを使用。さらに「磨き」と呼ばれる精米工程を工夫し、精米歩合23%の「獺祭・磨き二割三分」、同39%の「同三割九分」、50%の「獺祭・純米大吟醸50」を造った。精米歩合が低い(磨く割合が多い)ほど雑味の元になるタンパク質が減り、味は良くなる。「獺祭・磨き二割三分」は2002年モンド・セレクションで金賞を受賞した。

酒蔵では冬場に杜氏(とうじ)を棟梁(とうりょう)とする蔵人が酒を造る。同社は若い人たちを通年で安定雇用するため、夏場に忙しいビール事業に取り組んだが、不慣れな地ビールレストラン運営に乗り出し、失敗した。経営危機の噂が流れ、杜氏も離れていった。

ところが桜井氏は逆境を逆手に取り、社員たちと1年中出荷可能な四季醸造システムを開発。徹底したマニュアル化・データ化を図り、酒造りを見える化した。杜氏を挟まないため、経営者の意思が製造現場に直結し経営体質が強化されたのだ。

同社は、杜氏のいらない科学的製造法による純米大吟醸酒の四季醸造システムを確立し、顧客からも高い支持を受け、年々成長を続けている。世の中になかった、通年で純米大吟醸酒という酒を楽しむ池を創り上げ、その池クジラとなった。

<執筆>
アタックスグループ主席コンサルタント・西浦道明

2017年7月10日フジサンケイビジネスアイ掲載
 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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