知恵の経営

第108回

井から出よ、世界は広い

アタックスグループ 2017年3月15日
 
 東京都荒川区のJR西日暮里駅から徒歩で8分ほど行ったロードサイドの一角に、有限会社原田左官工業所(東京都文京区)の本社ビルがある。

 主な事業は社名の通り、タイル張りや防水工事、レンガ積み、壁塗り、ブロック工事などを行う左官業だ。

 今から約70年前の1949年、現社長である原田宗亮氏の祖父が創業し、その後、先代社長である父、そして現社長へとバトンタッチされてきた。

 3代続く左官業も珍しいが、驚かされるのは、その事業規模で、年々ゆっくりではあるが成長発展を続け、今や社員数は46人、そのうちの38人は左官職人である。さらに驚かされるのが左官職人の、何と8人が女性であることだ。

 全国に左官業は約2万事業所あるが、その大半は、従業員数1~3人規模の家業的左官業であり、同社は間違いなく全国最大規模の左官業となっている。

 業界動向は、原田左官工業所の動向とは正反対で厳しく、事実、高度経済成長期にわが国には左官職人が約30万人も存在していたが、その後、年々減少し、今や約7万3000人と、ピーク時の4分の1に激減してしまった。

 最大の要因は、新設住宅着工件数の半減など市場の縮小や、プレハブ住宅など左官業の仕事を激減させる工法の普及、さらには左官業への新規入職不足や左官業離れといわれている。

 しかしながら、同社のこの間の動向を見ると、近年の左官業の衰退の本質的な理由は、どこか別のところにあると思えてならない。

 例えば、左官業の職人の平均年齢は今や55歳にまで高まってきているが、同社の左官職人の平均年齢は35歳、そればかりか、38人の左官職人のおよそ3分の1は有名大学の卒業生である。加えて言えば、業界の女性比率は0.8%程度であるが、同社は何と21%と高い。

 ではなぜ業界の衰退を尻目に同社は成長発展しているのだろうか。その要因は多々あるが、あえて1つだけ上げれば、左官業を家業的事業と考えず、企業と評価・位置づけ、ビジョンを掲げ、代々、人財の確保・育成に注力してきたからである。

 加えて言えば、「ES(従業員満足度)なくしてCS(顧客満足度)なし」という考えに基づき、ESを高める経営を愚直一途に実践してきたからだ。

 こうした元気な伝統的産業の存在を見せつけられると、問題は業種とか規模などと嘆く、環境依存追随型企業に、「井から出よ世界は広い…」と言いたい。

<執筆>
法政大学大学院政策創造研究科教授 アタックスグループ顧問・坂本光司

2017年3月15日フジサンケイビジネスアイ掲載


 
 

プロフィール

アタックスグループ

顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

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